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松下幸之助が求めた「組織を動かせる人材」とは

渡邊祐介(PHP理念経営研究センター代表)

2016年07月04日 公開 2024年12月16日 更新

 

一人の目覚めから変えられる

松下電器(現パナソニック)を一代で世界的企業に育て上げた松下幸之助は、起業時3人の体制から、10万人を超える組織へと成長させた。グローバルな規模へ組織が大きくなることに対して、幸之助が恐れていたものは何だったのか。「人材に恵まれた」という幸之助だが、常日頃から自己の経営感覚にしたがって組織を動かせる社員になるよう訴えていた。社員一人の目覚めからでも組織は動くという幸之助の真意を探る。

 

組織と人、どちらが大事か

組織と人のどちらが大事か、すべての経営者やリーダーが抱える悩みであろう。人材を活かすためには組織を変えて対応すべきという考え方もあれば、組織は絶対で、組織の形に合う人材を選ぶことに徹するという考え方もある。

現実には個々の組織の伝統や経営者の方針によって様々だから、一概に結論が出るものではない。ただ組織と人、どちらかを究極の選択として重視するとすれば、松下幸之助は“人のほうが大事”と考えていた。ある雑誌のインタビューで次のように述べている。

「人によって組織を変えねばならん。組織はある程度自由に変えられますな。人は自由に変えるわけにはいかんでしょう。同じ人は一人しかいないもの。その人を活かそうと思って、この組織ではいかん、ということになったら、その人に向くような組織をつくったらいい。少なくとも、人を使い、人を育てるということのためには、そこまで徹しなきゃいかん。そう考えますね」

このように、幸之助がこだわったのは組織の器ではなく、社員の個性が活きるかどうかという点であった。

1918(大正7)年、わずか3人で開業した松下電器は、幸之助一代の努力で従業員10万人を擁する世界的な大企業に成長した。幸之助は、その要因の一つとして、「人材に恵まれたこと」を挙げている。

ただ、この「人材に恵まれたこと」とはどういうことをいうのであろうか。採用に恵まれたとは考えられない。なぜなら創業当初は採用に苦しみ、大卒などとても望むべくもなかったからだ。仮に昨日採用できた人材も、今日はたして出社してくれるだろうかと、幸之助は毎朝会社の門前で待っていたというエピソードもある。

実際は厳しい条件下で有利な採用ができたのではなく、たまたま入社した社員が自分の期待以上に育った。それだけだったともいえるのだ。

幸之助は、「人を使うのは運否天賦である」の言葉を引き合いに出して次のように語っている。

「不思議なもので、選りに選って、この人であれば大丈夫だと思って来てもらった人が、さて来てもらって働いてもらいますと、案に相違いたしまして、必ずしも好もしい状態でないという場合もございます。また、それに反して、この人を使うのはかなわんなあ、しかし頼まれたからイヤと言えんし、ということでいやいや来てもらった人が、案に相違してよく働いてくれる。そうして、大変結構な人であったという場合もあります。そういうことが、私の場合は比較的うまくいって、あまり問題を起こす人もなく、頼まれてそう期待せず来てもらった人が案外よく働いてくれるようなことになりまして、私に幸いしていると思うんです」

事業なり商売をしている人は、誰しもいい人材が欲しいと考えるものだ。しかし、いい人材は求めれば得られるかというと、ある程度は求めに応じた人が集まることはあっても、一面、お互いの力ではどうにもできない、ある意味で人の力を超えたところのものがあるということもまた事実である、と幸之助は考えていた。

そしてまた、「秀才ばかり集めてもうまくいかない」というのも持論であった。

「採用する時には、秀才ばかり採用したいと思いますわな。けれど、本当は秀才ばかり採用したら失敗ですよ。必ず喧嘩しよるですよ。だから、秀才一人と、あとは鈍才というわけやないけれども、ちょっとそれより落ちる人が三人なら三人。あるいはスポーツをやる人とか、そういうふうにして、いろいろな人を混合して採用するんです。つとめてそうしているんです。そうやないと、あんまり1番2番という連中ばかり集めたら、言うこと聞かんし仕事しよらんです。仕事してもみな議論ばっかりやって、なかなか事が運ばないです。それは非常に面白い現象だと思います」

このように幸之助は人材重視であっても、学歴や能力にこだわったのではない。どんな人材でもよい、というと語弊があるが、要は組織を成す中で、その人なりの天分や長所が発揮できるかという点こそ重要であった。

 

※本記事はマネジメント誌『衆知』2016年7・8月号、特集「世界で戦える人材の育て方」より、その一部を抜粋して掲載したものです。

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