欧州金融機関の不良債権問題 やがて欧米金融は日本の軍門に降る
2016年09月17日 公開 2024年12月16日 更新
安倍発言「リーマン・ショック前夜の状況」は本当である
欧州はデフレが続いており、経済状態が悪い。担保である不動産価格の下落が続くと、金融機関は不良債権を抱える。すでに各国の銀行が不良債権処理を迫られている状態であり、そうした金融機関の不良債権が今後、欧州の最大の問題となる。
一時期はギリシア問題が欧州最大の問題とされていたが、欧州先進国の銀行問題はギリシア問題よりはるかに大きい。ギリシア問題自体がなくなるわけではないが、相対的に小さくなっていく。
ギリシア国民は賢くなっていて、「ユーロ」離脱を求めなくなった。「ユーロ」から離脱したら、その瞬間にギリシア経済は崩壊することを理解し、どんなに負担が重くても「ユーロ」(EU)に残留しなければならないと思っている。ギリシアの昔の通貨「ドラクマ」では、誰も原油を売ってくれない。「ユーロ」から追い出されないためには、財政赤字を削減する努力を続けるしかない。
ギリシア問題は、欧州にとって大きな問題ではなくなってきて、銀行問題のほうがはるかに大きな危機となりつつある。
イギリスのEU離脱でイギリスの銀行が一行でも潰れたら、どうなるか。そのときに、フランスとドイツが無事でいられるのか。
イギリスの銀行が破綻したら、フランス、ドイツは無傷でいられるはずがない。フランスとドイツの銀行も大打撃を受ける。ドイチェ・バンクは、すでに経営が厳しい状態にあるなかで、イギリス発の金融危機が起これば深刻な問題だ。
ドイツは製造業の強い国だが、銀行が潰れて資金供給が停まれば、製造業も打撃を受ける。メルケル首相はエアバス機を中国に売りたくて足繁く中国に通っているが、資金がなければつくれない。
現在の世界経済の中で、長期資金に余裕があるのは日本だけだ。それは、10年物の長期国債の利回りを比べてみればわかる。
欧米各国の利回りと比べると、日本の利回りは圧倒的に低い。10年物の国債には中央銀行は直接介入しないから、需給バランスで価格が決まっている。利回りの低さは、長期資金に余裕があることを意味している。
アメリカにもヨーロッパにも、資金の余裕はない。そのため、欧米の超一流企業が日本の資金を当てにしている。金融面でも日本の地位が向上しているわけである。
窮地に陥った欧州に対して、唯一、資金の出し手となれるのは、不良債権処理を済ませている日本だけだ。
最後の長期資金の出し手として、日本しか頼るところがないことを世界の首脳はわかっている。
少し前の話になるが、モルガン・スタンレーはリーマン・ショック後に経営危機に陥り、三菱UFJ証券が救済したおかげで復活することができた。日本では三菱UFJモルガン・スタンレー証券として活動している。
野村證券はリーマン・ブラザーズから支援を求められて欧州部門を買ったが、こちらはうまくいかなかった。リーマン・ブラザーズのリストラが十分に終わらないうちに買収したので、野村がリストラをしなければいけなくなった。野村傘下に入ってから、かなりのリストラが行われている。
日本の金融機関が買収して経営再建を成功させられるかどうかはともかくとして、欧米の金融機関が日本に支援を求めてくる兆しはすでに出ている。
今後は、それがいっそう強まる。ヨーロッパのトップクラスの大銀行が「日本の同業者の系列に入れてください」とお願いしてくる可能性が十分にありうる。
場合によっては、もっと大きな救済の依頼が来るかもしれない。
長期資金に余裕があり、世界の金融を支えることのできる力が残っているのは、日本しかない。逆に言うと、日本は国際的に非常に有利な立場にあるということである。
安倍首相の言った「リーマン・ショック前夜」の認識は正しいものであり、世界はその備えをしておかなければならない。もし危機が起こってしまったとしたら、世界を支えることができるのは日本だけである。
※『「世界大波乱」でも日本の優位は続く』より一部抜粋
〈著者略歴〉長谷川慶太郎(はせがわ けいたろう)
国際エコノミスト。1927 年、京都府生まれ。大阪大学工学部卒業。新聞記者、証券アナリストを経て、1963年から評論活動を始める。以後、その優れた先見力と分析力で、つねに第一線ジャーナリストの地位を保つ。1983 年、『世界が日本を見倣う日』(東洋経済新報社)で第3回石橋湛山賞受賞。著書に、『日&米堅調 EU&中国消滅─世界はこう動く国際篇(共著)』『マイナス金利の標的─世界はこう動く国内篇(共著)』(以上、徳間書店)、米中激突で中国は敗退する(共著)』(東洋経済新報社)、『今世紀は日本が世界を牽引する』(悟空出版)、『日本経済は盤石である』(PHP研究所)など多数。