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後継社長の器量を決める2つの能力とは?

牟田太陽 《日本経営合理化協会専務理事》

2016年12月16日 公開 2024年12月16日 更新

 

筆者:牟田太陽
日本経営合理化協会専務理事。1972年東京生まれ。大学卒業後、アイルランドで和食レストランを創業。異境の厳しい環境で、創業の精神、強さ、忍耐、勇気、感謝の心を学ぶ。その経験と、事業を継ぐ決意とともに帰国、入協する。以来、社長専門の勉強会「実学の門」「無門塾」「後継社長塾」などを企画・運営。企画部長、事務局長を経て、2010年4月より現職。わが国屈指の社長専門コンサルタントで同協会理事長の牟田學から、事業経営の真髄と経営者としての心得について直接教えを受けた後継者である。2000社を超すオーナー社長や後継者と親密な関係を築く中で、社長や後継者が抱える様々な悩みや事業承継問題に精通。その親身かつ適切な指導には特に定評がある。

 

社長としての器量は、社員からの信頼で決まる

会社というのは、社長の器より大きくなることはない。「社長としての器量」とは世間でよくいうが、器が大きい小さいというのは社員がついてくるかこないかが一つのバロメーターとなる。

その「社長の器」は、誰もが大きくしたいと思っているだろう。そのためには二つの能力が必要だと私は考えている。

一つは、社長として、大きい絵を描けるかどうか。「大きい絵を描けるか」というのは、社員に対して夢を見せることができるかどうかということだ。そのためには、社長として事業にかける思いや方向性を描くことができなくてはいけない。

だから、我々、日本経営合理化協会では、お客様に事業発展計画書を作成していただいているのだ。

最初に作成していただくときは、誰もが理念・哲学・思想、そして戦略の部分でつまずく。「社長の人生観、世界観」というのを立ち止まって考える機会などないからだ。

当然だろう。世の中を広く見て、その中で自分はいったい何のためにこの事業をやっているのか、どこに向かっているのか、いまどのあたりなのか、いつまでにそこに行くのか……。あらためて考えると、こんなに難しいことはない。これがすっと出てくる人は、余程普段から自己啓発などをやっている人だろう。

しかし、この閉塞感や圧迫感が溢れる世の中で、それでも社長として社員にトンネルの先の光が見せられるようでなければいけない。それができなければ事業をやる意味もないとも思う。

誰にとっても一度しかない人生を自社に預けてくれているのだ。見事なまでの絵を描き、全社員に夢を与える社長であってほしい。

もう一つは、人を使えるかどうか。これが難しい。「人を使えるかどうか」というのは、上から目線でものを命令するということではない。

先ほど出てきた事業にかける想いや方向性を正確に社員に理解してもらい、実行して結果を出してもらわないと、「人を使える」ことにはならないからだ。頭のいい社長ほど、ここができない。

「事業発展計画書」と表紙に同じタイトルがついていても、会社によってその内容は大きく異なる。業種業態によっても内容は変わるし、事業規模によっても内容は変わる。

規模の大きい会社、社員数が多い会社などは、社長が現場の末端にまで日々指示を出すことは不可能なので、それなりに細部まで書かなくてはいけない。規模の小さい会社、社員数が少ない会社が背伸びをし過ぎても、達成できなければ落胆も大きくなって逆効果になってしまう。

このように内容は会社によって違うが、「誰でも理解できるように易しく書くこと」はどんな会社であっても必ずやらなければいけないことだ。社長が「素晴らしい計画書ができた」とどんなに自画自賛しても、社員に伝わっていなければ意味がないからだ。頭のいい社長はここができない方が多い。どうしても自分目線というのを下げて書くことができないのだ。

「もっと易しく書いてください」と言っても、何がいけないのか、なぜこれが理解できないのかがわからない。わかろうとしていないのかもしれない。

そういう状態で事業発展計画書を書こうとしても、社員について表面的にしか捉えておらず、本質が見えていないため、まるでテストの模範解答のような事業発展計画書ができあがってくる。もちろん頭のいい社長が作った模範解答だ。合格点ではある。

しかし、そこには創業当時からの、心から笑えるような楽しいエピソードはないし、涙が出るような悔しい思いをしたエピソードも決して書かれてはいない。それでは社員の信頼を掴むことはできない。

学歴社会で生きてきた二代目社長、三代目社長にはどうしても見受けられることだ。頭がいいからというだけで、社員から信頼されたり尊敬されたりすることはない。気をつけてほしい。もっと目線を下げて、心から社員と向き合う努力をしてほしい。

新しいモノ好きな後継社長もそうだ。古いモノ、古参の社員を遠ざけ、新しいモノを身につけたがったり、若い社員をちやほやし、自分の傍に置きたがる後継社長をよく見かける。新しさ、若さを強調したいのもよくわかる。

しかし、何でも古いモノを遠ざけ、新しいモノにかえていく社長より、古いモノを大事にし、古参の社員を敬う社長の方が、社員は安心感を覚えるものだ。

理事長の牟田學が毎日のように通う「たんぽぽ」という定食屋がある。創業当時からの付き合いで、私も幼稚園生の頃から行っており、家族ぐるみの付き合いとなっている。日本経営合理化協会の4階にセミナーホールをつくったとき、一番はじめにお弁当のデリバリーをしてくれたのもたんぽぽだった。そのためだけにお弁当の箱を用意してくれた。いまでもセミナーがあるときや会社の大掃除のときなどは、たんぽぽにお弁当をつくってもらったりしている。

しかし、近年入社した社員などは、そんな関係も知らずに「たまには味を変えたほうがいいだろう」と理由をつけ、他の仕出し弁当を手配したりもし始めていた。

そんなとき、東日本大震災が起きた。コンビニエンスストアの食品棚からは食べ物が消え、電車は止まり、帰宅困難者が続出した。弊会の社員も何人も会社に泊まった。会社に泊まる社員たちのために夕食を用意してあげようと歩き回ったが、当然、どこにも食料は売っていない。

ガッカリして肩を落とし会社に戻ると、たんぽぽから電話がかかってきた。「帰宅できない方も多いでしょう。お困りでしょうから」と、おにぎりをつくってあるので取りに来てほしいと言うのだ。その有り難さには涙が出た。

新しいモノは見栄えがよくて目立つし、便利なモノも多い。しかし、古いモノもずっと使い続ける良さというものがある。

※本記事はPHP研究所刊、牟田太陽著『後継社長の実務と戦略』より一部を抜粋編集したものです。

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