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坂本龍馬の船中八策はフィクションだった?

松浦光修(皇學館大学文学部国史学科教授)

2016年12月20日 公開 2023年01月19日 更新

※本記事は、PHP新書『龍馬の「八策」』より一部を抜粋編集したものです。


坂本龍馬(写真:国立国会図書館)

 

龍馬のもっとも有名な文章とは?

坂本龍馬といえば、「幕末の志士」のなかでは、戦後、もっとも広く知られている人物です。

それでは、「龍馬の書き遺したもので、有名な文章とは?」と問われると、ふつうの人なら、たぶん「船中八策」と答えるでしょう。

それについて、これまでいわれてきたことは、こうです。慶応3年6月、龍馬が長崎から京都・大坂に向かう「夕顔丸」という船のなかで、後藤象二郎と相談し、その結果を、長岡謙吉に書き取らせた文書が「船中八策」である……。

もちろん、その文書を「船中八策」と呼ぶようになったのは、ずっとあとの大正時代になってからのことですが、龍馬といえば「船中八策」を連想するのは、ずいぶん長いあいだ、日本人の常識のようになってきました。それはいったい、どのような文書なのか、まずはその全文をあげてみましょう。

 

いわゆる「船中八策」

一、日本全体の政権を、まずは朝廷にお返しし、政治上の命令は、すべて朝廷から出るようにしなければなりません。

一、上・下の議政局という議会を設けて、それぞれに議員を置き、政治上の重要な問題を決めるさいは、必ず議員たちで議論するようにし、すべての政治上の重要な問題は、公に開かれた議論によって、決定されるようにしなければなりません。

一、有能な公家や大名、あるいは世の中のすぐれた人材を、顧問というかたちで引き立てて、官職や官位を与えます。その一方で、かたちばかり残っていて、中身のない役職は廃止しなければなりません。

一、外国と交際する方法は、広く国際的に認められているものにしたがい、さらに、これからは、そのことについても、新しく道理の通った規則をつくっていかなければなりません。

一、わが国に古くからある法律を参考にしつつ、しかし新しく、永遠に通用するような大典(憲法)をつくらなければなりません。

一、海軍は、増強しなければなりません。

一、皇室に直属する軍隊を設置し、天皇さまのいらっしゃる都を、大切にお守りしなければなりません。

一、金・銀の値段は、外国と等しいものになるよう、法律で定めなければれなりません。

以上の8つの策は、今のわが国の情勢と、世界の国々のありさまを考えると、もはやこれ以外の方策で、急いでわが国を救う方法はない、とさえ思われるものです。もしも、これらの策を断行するなら、天皇国・日本の運命は、ふたたび盛り返し、わが国の勢いが世界に拡張していき、やがて今の世界の列強と対等の国になる……ということも、むずかしいことではないでしょう。

そこで以上のことを、どうしてもお願いしたいのです。公平で明確で、そして正しく大きい道理にもとづき、一つの大英断によって、全国の人々とともに、わが国を一新してまいりましょう。

 

なるほど、これなら誰しも「卓越した議論」(松浦玲『坂本龍馬』)、「卓抜な議論」(佐々木克『坂本龍馬とその時代』)などと、たたえるほかない内容です。さらに、今のところもっとも新しい『坂本龍馬全集』(増補四訂版)でも、こう、たたえられています。「船中八策」は「薩土盟約」や「大政奉還」に関する建白書」の「基案となり、明治維新政府の綱領『五箇条の御誓文』にもつながり、維新史上、注目すべき文書である」。

こうした見解を受けてのことでしょう、今は学校教育の現場でも、「船中八策」が高く評価されています。たとえば、日本史の受験勉強でおなじみの『日本史用語集』(山川出版社・平成26年版)にも、「船中八策」という項目があり、そこには、「坂本龍馬が一八六七年に起草した国家体制論。上下議政局からなる二院制議会と朝廷中心の大名会議が権力を持つ統一国家構想。八カ条にわたる」とあります。

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「船中八策」はフィクションだった?

著者紹介

松浦光修(まつうら・みつのぶ)

皇學館大学 文学部国史学科教授

昭和34年、熊本市生まれ。皇學館大学文学部を卒業後、同大学大学院博士課程に学ぶ。現在、皇學館大学文学部教授。博士(神道学)。専門の日本思想史の研究のかたわら、歴史、文学、宗教、教育、社会に関する評論、また随筆など幅広く執筆。著書に、『【新訳】南洲翁遺訓──西郷隆盛が遺した「敬天愛人」の教え』『【新訳】留魂録──吉田松陰の「死生観」』『【新釈】講孟余話──吉田松陰、かく語りき』(以上、PHP研究所)、『大国隆正の研究』(神道文化会)、『やまと心のシンフォニー』(国書刊行会)、『夜の神々』(慧文社)、『日本の心に目覚める五つの話』(明成社)、『日本は天皇の祈りに守られている』(致知出版)など。

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