漠然とした不安、イライラ、思うようにならないことに対する焦り...こうした負の感情はなぜ生じ、どう向き合えば軽減できるのか。心理カウンセラーの石原加受子氏に聞いた。 (取材・構成=石井綾子)
※本稿は、『THE21』2017年3月号特集「心が折れない働き方」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「ねばならない」が負の感情を生む
不安や焦り、なんとなくイライラ、どうしようもなく落ち込む……こうしたネガティブな感情は、なぜ生じるのでしょうか。全般的に言えるのは、「~しなければならない」という考え方に無意識に縛られている人が多いということです。
「~しなければならない」と言うときには、最初から目標となる基準があり、それを達成できなかった場合に「自分はダメだ」と感じます。すると「基準に合わせなければ」と必死になって焦ったり、不安になったり、落ち込んだりするのです。
なぜ、「~しなければならない」という考え方に縛られてしまうのでしょうか。それは、私たちは幼い頃から「人の期待に応えなければならない」「〇〇を達成しなければならない」と言われて教育されてきたからです。
たとえば、人が最初に所属する社会的コミュニティーである幼稚園や保育所では、遊ぶ時間も食事の時間も、お昼寝の時間も全部決められています。ということは、みんなに合わせて同じことをしなければいけない。そしてそれに合わせられなければ、和を乱す自分勝手な子、となるわけです。
家でも学校でも親や先生が「周りに合わせて行動しなさい」と言い続けるので、「合わせなければならない。期待に応えなければならない」と刷り込まれていき、大抵の人は、「~しなければならない」という規範に合わせて生きていくことになります。
辛いときほど「自分の欲求」優先でいい
とかく現代の日本では、周囲に合わせて「~しなければならない」という規範に縛られることが多いように思います。多くの人が負の感情を抱え込み、自分を責めてしまいがちな時代と言えるでしょう。
たとえば、上司に不当に怒鳴られても、「自分は怒鳴られて当たり前の人間だ」と自分を責める人がいるとします。そういう人はこれまで「社会のニーズに応えなければ」「会社に適応しなければ」という思考で生きてきたので、それができないと自分を責めてしまうのです。
そして、この場面では「上司が怒鳴っている」という状況から、即、「自分が上司の期待に応えられなかったから悪いのだ」と自動的に考えてしまい、どこが問題で怒られているかということについては考えが及ばないのです。
ではこのような負の感情が生じたとき、どのように対処すればいいのでしょうか。それは、自分の気持ちや欲求に立ち返ってみることです。
たとえば、一流企業に勤める会社員が、上司からパワハラを受けていてあまりにもつらいので、会社を辞めようかどうしようか悩んでいるとします。給料は転職すれば下がることが確実。
損か得かで言えば、今の会社にいるほうが得です。人に相談すれば十中八九、「働き続けるべき」と言われるでしょう。
しかし、損か得かや他者の判断ではなく、自分の気持ちや欲求を基準にすれば、現状を変えたいと望んでいるわけです。そのために「今、どうすれば良いのか」と考えるべきなのです。
まずは、人事異動などでつらい要因(上司)を回避して働き続けるための方法を考える。手を尽くしても改善されないなら、やはり転職しようという結論になるかもしれません。
自分の欲求に従っていれば、徐々に「周囲に合わせなければ」という思考から解き放たれていきます。不安や焦りを感じたときは、まず、自分の心の声を聴いてみましょう。