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「経済はテレビでチェック」が遅れてしまうワケ

伊藤洋一(住信基礎研究所主席研究員)

2011年10月06日 公開 2022年12月26日 更新

大災害の余波と多額の累積債務を抱える日本。

この"最大のピンチをチャンスに変える「新・日本力」の源泉"を、金融・企業の両面から考えるべきと、伊藤洋一氏は訴える。

正しく経済を見る眼を養うための過程で、同氏は"テレビ"の存在が視野を狭めかねないと警鐘を鳴らす。

※本稿は伊藤洋一著『ほんとうはすごい!日本の産業力』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

テレビの弊害

日本の新聞報道の"癖"はむろん、日本のテレビ報道の癖にも通じるところがある。なぜなら、日本のテレビ報道のかなりの部分は、新聞をベースにしているからだ。

もっとも、テレビにはテレビ独自の大きな癖がある。普通の人間は首を回せば、300度くらいの視界を常に持っている。なんとなく広角度を見渡しているのが人間で、視界は広い。

これに対して、極度に狭められた視界の、それも非常に限られた場面をあたかも「世界のすべて」「その場のすべて」のように映し出すのがテレビという存在だ。

 

笑い話、しかし現実

私がテレビの弊害としていつも笑い話的に、しかし深刻な例として思い出す事件がある。それは2007年の7月に起きた。

新潟県中越沖地震で東京電力柏崎刈羽原発から放射性物質を含む水漏れ事故があったのだが、日本人は皆「水漏れ事故の影響があるのは新潟県の一部の地域」という基本的な知識があり、他の地域の人間(たとえば東京に住む私)は自分が住む地域の安全を心配したわけではなかった。

しかしその地震・水漏れ事故直後に来日してサッカーJリーグ1部(J1)のいくつかのクラブと親善試合を予定していたイタリア1部リーグ(セリエA)のカターニアは違った。

直後だったことか大きかったと息うが、7月末から8月上旬に秋田で横浜FCと、磐田でジュビロ磐田と、千葉でジェフ千葉と予定していた3試合をすべてキャンセルしてきたのだ。

恐らくイタリアのテレビに映った地震のニュースと、「柏崎刈羽原発での水漏れ事故」の映像が衝撃的だったのだろう。

イタリアのテレビの映像は、時間的制約もあるからどうしても「現実の一部切り取り」になり、それがかなり衝撃的なものだったと思われる。

イタリアの人々は「日本全部が危険」と推測した。それで「遠征取りやめ」となった。

しかし、こうした事態はよく発生する。イラクで「自爆テロ」の報道が繰り返されると、イラク全土が自爆テロの連続に見舞われているように世界中の人が思う。「治安は劇的に良くなった」と米軍が発表する。そこに食い違いが起きる。

日本でも悲惨な交通事故の映像が映し出されると、瞬間的に「日本では交通事故が増えている」と日本人自身が思う。しかし実際には、交通事故死は日本では年々減っている。

つまり、人々はしばしばテレビの一画面が、「現実のごく一部の切り取り」であることを忘れてしまう。

特に自分が行ったこともなく、知識が希薄な所の出来事だと、テレビで見た画面のような状況が、その国、地域全体で展開しているような"錯覚"に取りつかれる。

当の日本人が秋田や磐田、それに千葉に住むことを心配していなくても、イタリアから見れば極東の小さな国である日本の一カ所で起きたことは「日本全部で起きている」と考えてしまったのである。

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「かっけ反応」の報道バターン

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