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松下幸之助創業者に学んだこと~長榮周作・パナソニック会長

マネジメント誌「衆知」

2017年06月03日 公開 2024年12月16日 更新

※本記事はマネジメント誌「衆知」2017年3・4月号より、創刊特別企画「幸之助さんの教えに学んだこと」の一部を抜粋編集したものです。
取材構成:森末祐二
写真撮影:白岩貞昭

 

正しい姿で衆知を集め、正しい道をひらく

創業者の思想を行動規範に

仕事の実践面においては、「衆知を集める」ことを心がけてまいりました。例えば部下から相談を受けたり、報告を聞いたりした時、私はできるだけ「君ならどう考える?」と尋ねるようにしています。これは部下に自分の頭で考えるよう仕向けているわけですが、同時に、そこで学びを深めた部下から「よりよい知恵を集める」という意味合いもあるのです。もちろん、部下の話の中で理解できないこと、知らない方法があったとして、それを調べて勉強すれば、私自身の成長にもつながります。

その点、旧松下電工は非常に風通しのいい会社で、私は若手の頃から上司に対してどんどん自分の意見を述べていました。あとで気づいたのですが、若手でも遠慮せずに意見を述べられる雰囲気がつくられていたということは、その上司が、私のような若手社員から「衆知を集めて」いたのではないかと思います。

創業者は、松下電器を創業した初期の頃、ソケットやプラグの材料である「練物」の原料や製法を全社員に公開しました。技術の流出を防ぐ意味で 当時はそうした情報は社員に隠されることが一般的だったため、「ガラス張り経営」の先駆であるとよくいわれます。私としては、そこには全社員と情報を共有して、より優れた知恵を集めるという意図もあったのではないかと推察しています。

私が組織でリーダーの役割を担うようになってからは、「怒ったり叱ったりせずに、相手の話をよく聞く」姿勢を貫いてきました。もしもリーダーが部下を叱り飛ばしたら、萎縮したり、あるいは反感を買ったりして、部下は意見を言えなくなってしまうでしょう。それでは正しい情報やよい知恵が集まりにくくなります。こちらの気持ちや意図がなかなか伝わらず、もどかしい思いをすることもありますが、それでも我慢し、怒らずにじっくりと話を聞くことが大事だろうと考えています。

 

正しく、あきらめない姿勢を大事にしてほしい

いろいろな意見を聞いた結果、よい知恵が集まって決断しやすくなることもあれば、逆に判断に迷うようなこともないわけではありません。責任のある立場になればなるほど、リーダーが一人で決断しなければならないことも増え、複数の選択肢があったとして、「あちらを立てればこちらが立たない」ような場面は頻繁に出てきます。そんな時に私が立ち返るのが、丹羽社長がおっしゃっていた「正しい姿で」という言葉です。迷った時は、自分たちが果たすべき社会的な使命と照らし合わせて、「より正しい」と思うほうを選ぶよう努めてきました。

すべてにおいて100パーセントの満足が得られないにしても、「より正しい」道を選んでおけば、概ね事業はよい方向に進むものです。この考え方は、己の実力を正しく把握し、それにもとづいた事業運営によって社会的使命を果たしていくという、創業者が訴えておられた「適正経営」の考え方につながるものだと思っております。

パナソニックの剣道部の監督として指導にあたった時も、この「正しい姿で」に則って、基本に忠実な「正しい剣道」をしようと訴えてきました。これが伝統として根づいているのか、先般わが社の剣道部が全国優勝した際、「パナソニックの剣道は正統派である」という評価を受けました。これは非常に嬉しいことで、創業者や丹羽社長の教えは剣道にも通じるのだなと、改めて感心したものです。

また、部下の指導においては、丹羽社長の「掘り抜き井戸」の話をすることがあります。「掘り抜き井戸」とは、水が湧き出るまで決してあきらめずに穴を掘り続けること。掘る努力を続けても、水脈に到達する前のところであきらめてしまったら、それまでの努力が無駄に終わってしまいます。

例えば「上司に意見を却下されて、思った仕事ができない」と若い社員から相談されたら、私は「一度や二度却下されたくらいであきらめたりせず、何度でも挑戦して上司を攻略しなさい」と答えるようにしています。A案が駄目ならB案、それが駄目ならC案を出して、上司が首を縦に振るまで粘り続け、工夫し続けるのです。

成功するまで努力し続けられた創業者の気概を、若い人たちにも身につけていただきたいと願っています。

長榮周作(パナソニック会長)
ながえ・しゅうさく。1950年、愛媛県生まれ。愛媛大学工学部電気工学科を卒業後、1972年に松下電工(現パナソニック)に入社。一貫して照明事業部で商品の企画開発に携わる。インドネシア松下電工ゴーベル社社長、照明デバイス開発事業部事業部長、SUNX(現パナソニック デバイスSUNX)社長、パナソニック電工社長、エコソリューションズ社社長などを歴任したのち、2013年より現職。

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