なぜマインドフルネスは悩みや苦しみを解決できるのか
2017年07月04日 公開 2024年12月16日 更新
理想ではなく、まず現実を見る
人は「ギャップ」に悩む
菱田 最近悩んでいる人が多いと感じますが、いかがですか。若い人だけでなく、中年の人でもかなりの数の人が悩んでいて、その悩みが原因でうつになっている人もいるようです。
牧野 そうですね。とくに日本には軽い気持ちで「セラピーに行ってきます!」と言えるような風土はないので、悪化することも多いのかもしれませんね。
菱田 年配の人から言わせると、「こんなに豊かになったのに何をぜいたく言っているんだ!」ということになるんでしょうけれど、どんな世の中になっても「世に悩みは尽きない」というのも真実です。
牧野 豊かさとは関係なく、世の中の変化に応じて悩みもまた変化するんだと思います。理想と現実とのギャップに悩んでいて、その理想と現実もまた変化を続けているので、こんがらがっているのではないでしょうか。
菱田 人が悩むのは、集団での人間関係であれ、職場での地位であれ、世間的な評判であれ、なんであったとしても、自分が思い描いていた「あるべき姿」と「現状」の間にギャップがあり、そのギャップを埋めることが難しそうな状況においてだといえますね。
牧野 そうですね。埋まらないようなギャップがなければ悩む必要はないですから。
菱田 ということは、ギャップが解消できれば、もしくは解消できることが明らかになれば悩みはなくなりますね。ギャップの解消の仕方としては、
1)あるべき姿に現状を近づける方法を見つけ安心する
2)あるべき姿を修正し現状に近づける(つまり、諦める)
3)あるべき姿も修正し、現状もそれに近づける方法を見つけて、安心する
というように大きくは3通りあります。
牧野 理想に向かって現実を変化させギャップを解消するか、理想を諦めてギャップを解消するか、両者で歩み寄るかということですね。
菱田 しかし、1)については、そのような方法がうまく見つからないから困っているはずで、それを見つけるためには今までと違う努力をしなければいけないことになります。
2)については、きちっと諦められるのであればいいのですが、そうでないとストレスの元になってしまいますし、もし現状の認識が誤ったものであれば埋めたはずのギャップが埋まっていないことにそのうち気がついて、また悩むことになります。
そもそも、あるべき理想の姿みたいなものを具体的に持っている人もいれば、そうではなくて、「なんとなく人生こういうふうになるのではないか」というストーリーラインを勝手に描いていて、そこからなんとなく外れているようなので悩んでいる人もいます。それらも根拠が希薄だとはいえギャップ感の一つであるのはたしかです。
たとえば、今までするするとうまくいっている人に多いのですが、そのまま根拠なしに直線的にどこかに上り詰められるのではないかと期待している人がいます。そういう人は、1回失敗すると、「もう上ることは不可能だ……」と落ち込んでしまいます。あるべき姿とか自分の描いているストーリーラインが正しいかどうかを疑っていないのが原因の一つです。
だからその姿に1)で近づけようとしたところで、かなり無理があるし、仮にうまく近づけたとしても、あるべき姿が実は自分が思っていたのと全然違うことだったということがあるわけですよ。
牧野 そちらのほうが多いのではないでしょうか。
菱田 悩んでいる人の相談に乗る中で共通して感じるのは、何に悩んでいるのかについてよくわかっていないということです。よくよく聞いてみると、何も悪いことは起こっていないにもかかわらず、悪いことが起こっていると思ってしまっているというように、今自分が置かれている状況を客観的に把握できていなかったり、あるべき姿がその人の好みにまったく合っていなかったり、自分の性格や能力をよいほうでも悪いほうでも、違うふうにとらえていたりすることがよくあります。知識や分析などのスキルの問題ではなく、知識がとても豊富でスキルがある人でもなぜか客観的な認識ができない人がいるのです。