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アンガーマネジメントとマインドフルネス

菱田哲也・牧野宗永

2017年07月25日 公開 2022年08月01日 更新

企業がマインドフルネスを導入するわけ

菱田 ところで、仏教は目標を設定してはいけないとも言っていませんよね?

牧野 そのとおりです。

菱田 「目標を設定するときに、間違った方向にいくと、パフォーマンス上がらないよ。そのときに何かをガッと握っていたり、今楽しいからこれを突き詰めていきたいと思って目標を立てたりすると変な方向に向かってしまいますよ」というのが仏教の教えだと思います。

牧野 まさに、先ほどご説明した手の甲を上にして十円玉を握った状態ですね。

菱田 そうして考えていくと、仏教はもっとパフォーマンスを上げるための方法論を提示していると思ったほうがいいのではないでしょうか。

牧野 そうですね。

菱田 その方法論の効用としては、個人でも心の病気が治せるようになるし、パフォーマンスも上がるし、組織のパフォーマンスも上がるということですね。「マインドフルネス」を採用している企業はそういう部分を向上させようとしているわけです。心の病気だけ治そうとしているわけではないんですよ。

牧野 そうですね。どんなシチュエーションでも役立つメソッドといえます。

たとえば、家の中でこれを実践したら、こんな効果があったと教えてくれた方がいました。その人は、今まで小さな娘さんに対して、しっかりしつけないといけないという思い込みから、何かあると厳しく叱っていたそうです。そうすると、お父さんはいつも怒っていて、怖い顔をしているので、娘さんは近づいてこなくなってしまった。

でも、瞑想を実践して、怒りが湧いてきたときに、これは叱るべきか、叱らないでおくべきかを考える余裕を持てるようになったそうです。そこでフッと力が抜けて、叱るときでも怖い顔をせずに叱れるようになって、今まで近づいてこなかった娘さんが、なつくようになったといいます。

菱田 職場でも使えますね。

牧野 はい。職場に関しては菱田さんのほうがよくご存じかと思いますが、家族関係同様、会社での上司と部下の関係にも応用できます。

また、客観的認識という意味で、プロジェクトを立ち上げたり、企画書を作成したりするときにも役立ちますね。プロジェクトを立ち上げたり、人に何か提案したりするときに何が一番重要かというと、ベースとなるリサーチ段階の情報の質ですよね。情報の質は、それを集める人の知識や視野の広さにかかっています。人間は見たいものしか見ないし、自分に都合のいいことしか認めたくない生き物です。結果として、情報収集をしても自分に都合のいいものしか引っ張ってこない場合が多いわけです。

でも、自分のこだわりや心の癖を客観的に認識できていれば、「少しソースが偏りすぎているな。都合が悪いけれど、反対派の意見も聞いてこよう」となるわけで、最初からそうした幅広い視野で取り組めば、進んでいくうちに起こる問題も事前に想定できるようになるわけです。

菱田 そうですね。そのような意見が「注」という形であっても資料に入っていれば、少し進んで見直すときの見直し方が変わってきますし、見直しのヒントにもなります。

牧野 本当におっしゃるとおりで、「自分の考え方や価値観を無反省のまま前提において、話や計画を進める」のをやめるのは非常に重要なことだと思います。他人には自分と違った考え方があることをしっかり理解することで、本当の意味での多様性を受け入れる心の土壌が整うわけです。そうすると、なぜこの人は自分と違う価値観を持っているのだろうと興味が湧いて、その人のことを理解したくなる。そういうことを掘り下げて考えていくための知識が、教養といわれるものだと思います。

菱田 たしかに教養は表面だけではなく、背景を知る必要がありますからね。

 

※本記事は、菱田哲也、牧野宗永著『働く人のマインドフルネス』より、その一部を抜粋編集したものです。

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