市民の党献金問題は「国家反逆罪」
2011年10月31日 公開 2022年09月29日 更新
"「政治とカネ」を超越した事件
政治とカネ。クリーンな政治を掲げて政権交代を果たした民主党だが、この問題が俎上に載らない日はない。しかし、菅前首相の資金管理団体である「草志会」が2007年から2009年にかけて、「市民の会(政権交代をめざす市民の会)」という政治団体に6,250万円もの献金を行ない、さらには多くの民主党議員も「市民の会」と関連する「市民の党」、「MPD・平和と民主運動」とのつながりをもっていたという事実は、「政治とカネ」という問題を完全に超越した、民主党最大の暗部を象徴する事件といってよいだろう。首相が代わっても、民主党が抱える問題は、何ら解決していないのだ。
草志会が多額の献金を行なっていた市民の会とは、斎藤まさし氏こと酒井剛氏を代表とする市民の党から派生した政治団体である。酒井氏はいまも「共産主義革命をめざす」と公言する過激派で、市民の党の機関紙である『新生』にはかつて、よど号ハイジャック事件のリーダーだった故・田宮高麿が寄稿している。
また今年の統一地方選挙で、市民の党から三鷹市市議会議員選に立候補し、落選した森大志氏は、父親が田宮高麿、母親が石岡亨さんと松木薫さんの拉致実行犯である森順子である。森大志氏は、父親の故・田宮高麿が北朝鮮でつくった「日本革命村」で生まれ育ち、徹底的な金日成思想教育を受けた、いわばテロリストのエリートだ。
その極左団体に菅前首相が6250万円、ほかにも鳩山元首相、池田元久氏、黒岩宇洋氏、小宮山泰子氏、松崎哲久氏、鷲尾英一郎氏、大久保潔重氏ら名の国会議員が判明しているだけで8000万円もの献金を行なっている。
ここからさまざまな問題点が指摘できる。まず、菅前首相が5000万円を献金した2007年には、民主党から草志会に1億2300万円の献金があったことがわかっている。つまり菅前首相の献金は、政党交付金という国民の税金から出ているのではないか、という疑惑だ。
また7名の国会議員のうち、鷲尾氏は菅内閣で衆議院拉致問題特別委員会理事、黒岩氏は法務大臣政務官を務めている。拉致問題と直接関わる役職にいる人たちが、拉致実行犯に深く関与している団体に献金していたのだ。
しかも鷲尾氏の関係団体「わしお英一郎東京応援団」の会計責任者は酒井剛氏で、事務方が「市民の党」の事務担当者であることもわかっている。保守の信条を共有する仲間として私も、彼と拉致実行犯に関係する団体とのつながりを信じたくはないが、現実に鷲尾氏は少なくとも3276万円を献金している。とくに2007年には、市民の党系地方議員16名から鷲尾氏の関係団体へ2550万円が献金され、このうちほぼ全額に近い2500万円が市民の党へ献金されている。
これらはすべて酒井氏がやったことで自分は関知していない、と鷲尾氏は述べているが、4年も酒井氏を会計責任者として雇いながら一度もチェックをしていなかったとは信じ難い。まして鷲尾氏は税理士と公認会計士の資格をもつ人物だ。しかも酒井氏は保守の鷲尾氏とは対極にあり、そのような人物をあえて雇うのは認識が甘いのか、あるいは別の思惑があるのか。
黒岩宇洋氏にしても、法務大臣政務官とは公安情報に接することができる立場だ。さらに黒岩氏の関係団体が市民の党に献金をした2009年に、彼は北朝鮮拉致問題特別委員会の筆頭理事を務めていた。5月11日の法務委員会で自民党の河井克行氏がこのことを追及しているが、黒岩氏はしどろもどろの回答しかできなかった。
見過ごしてはならないのが現在、民主党幹事長代理の城島光力氏。彼が市民の党に献金した2007年は落選中だったが、本名で100万円の個人献金を行なっている。2009年に再選されたあと、衆議院北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員長を務めるが、このとき彼はなんと朝鮮総連(在日本朝鮮人総聯合会)が開催した金正日の誕生を祝う会に出席している。
拉致問題は日本の最重要課題の一つであり、拉致特別委員長は立法府のなかで委員会を取り仕切る行司役。その行司役が、拉致の実行犯を応援する団体のパーティーに参加したのだ。
私は1年ほど前、この話を事前通告なしに拉致特別委員会において委員長である城島氏に質問したが、彼は激昂し、「名刺を置いただけだ」「30分いただけだ」と語った。名刺を置くだけでなぜ30分もかかるのか、不思議でならない。
選挙資金の調達が背景に?
さらに、この問題は国会議員だけに留まるものではない。16名の地方議員がまた、総額1億3000万円以上の献金を行なっているのである。ある横浜市議は3年間で1800万円近くを献金しているが、横浜市議の月額報酬は97万円。しかもこれは額面で、税金などを差し引けば、ほとんど全額を寄付したに等しい。
他の議員たちも似たようなもので、彼らの大半はほかの仕事で副収入があるわけではなく、議員報酬に依存している。にもかかわらずこれだけの大金を拠出できるのは、違うところから流れてきたお金を回していると考えられる。すなわちマネー・ロンダリングである。
背景の一つにあるのは選挙資金の調達だろう。2007年は参議院議員選挙で民主党が大勝し、政権交代への足掛かりを築いた年だが、この年の市民の党の収支報告をみると、人件費として5000万円以上を計上している。上限ギリギリの額で、これほどのお金を何に使ったかといえば、おそらく運動員の買収に充てたのではないか。収支報告書には「人件費」の詳細の記載が不要であり、それを利用した可能性が高い。
ある自民党議員から聞いた話だが、選挙が近づくと相手陣営に突然、第一革命世代といわれる年配の人たちがチームを組んで現われ、ポスターを2日ほどでみごとに貼り終えて去っていくという。市民の党の運動も似たようなものだろう。彼らは自らの活動を「ボランティア」としており、酒井氏もかつて『AERA』のインタビューでそのように答えている。だが実際には、そんなに軽い話ではないはずだ。
彼らの最終的な目的は、共産主義革命である。これは市民の党が出していた『新生』という機関紙や、『理戦』という雑誌でも語られている。酒井氏はかつて極左暴力主義による闘争を標榜していた。しかしいまは、選挙を通じて革命を成就させることを考えているという。そのために勝手連と称する選挙活動を行なってきたのだ。
そして彼らにとって、いちばん食い込みやすい政党が民主党だった。しかも実際に活動してみると、そのやり方は非常にうまくいった。たとえば千葉県の堂本暁子前知事が出馬した際も、彼らは事務所に何十日か入り込んで活動した。同じようにあちこちで国会議員や知事・市長を誕生させており、『AERA』は酒井氏を「選挙の神様」ともてはやしてもいる。
われわれ自民党議員のもとにも、政権与党時代が長かったこともあって、いろいろな人が選挙の応援や手伝いをしたいと集まってきた。このとき先輩秘書や先輩議員からよくいわれたことが、「ありがたい話だが、よくチェックしろ」という言葉だった。そのなかには絶対に関係してはいけない団体、そこから派生する政党、関連する人物などがかなりの確率で存在している。その典型が、市民の党のような極左団体だ。
彼らは公安調査庁や警視庁がマークしている人間であり、団体である。市民の党が入居しているビルは、北朝鮮と深い関係にある人物が経営しており、朝鮮総連とつながりがあることもわかっている。その団体に民主党は深く侵食され、抜き差しならない関係にまで陥っているのだ。
鳩山元首相と菅前首相の献金について、「ブッシュ前大統領とオバマ現大統領がアルカイダに献金しているようなもの」と評した人もいる。言い得て妙だろう。アメリカなら「国家反逆罪」で罰せられるところだが、逆にいえばそんなことは100%起こりえない。しかしわが国日本では、それが現実のものになろうとしている。しかもそこには、国民の血税が使われているのである。
菅前首相には説明責任がある。これは首相の座を辞したからといって解決する問題ではない。私は自民党で「菅(前)総理拉致関係献金疑惑追及プロジェクトチーム」の座長を務めているが、いま行なっている調査からも、新しい事実が次々と出はじめている。さらにいえば、この問題に関してしっかり説明責任を果たし、けじめをつけるのは、民主党の現代表であり、政府の拉致対策本部長でもある野田首相の役目にほかならない。
宥和政策の誤りを認めたヒル氏
9月11日、野田首相は拉致被害者の家族と初めて面会した。家族会・救う会・拉致議連は9月4日の緊急国民集会の決議で、政府に対して次の3項目を要求している。
1.野田首相は、北朝鮮に対しすべての拉致被害者をすぐに返せ、という強いメッセージを自らの言葉で発信せよ
2.北朝鮮が「調査やり直し」約束を反故にして3年が過ぎたことを理由に、すべての在日朝鮮人と日本人の北朝鮮往来禁止や、対北朝鮮送金の禁止などの全面制裁を発動せよ
3.朝鮮高校への無償化適用手続きを、拉致問題を理由に停止せよ
面会では野田首相と玄葉外相から、被害者救出のメッセージを強く発信したい、という言明があった。これは決議第一項目を意識したものと思われるが、第二項目に関しては首相からの言及はなかった。さらに玄葉外相から、「制裁は手段であって目的ではない。問題解決のためにいちばん有効な手段をとるべき」という話があったという。
しかし歴史的事実を振り返れば過去、北朝鮮に宥和政策をとって成功したケースは一度もない。1990年代初め、クリントン政権の時代からアメリカは宥和政策を打ち出し、核施設の凍結の見返りに重油を100万t提供したり、食糧の支援を行なったりしてきた。KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)を通じて軽水炉2基の建設の約束もしたが、結果としてこれらは北朝鮮に核開発の時間を与えただけだった。
逆に北朝鮮が歩み寄ってきたのは、アメリカのブッシュ政権が北朝鮮をテロ支援国家に指定し、マカオの銀行であるバンコ・デルタ・アジアに金正日がもっていた個人口座を封鎖したときである。困った金正日は日本や中国にSOSを求めてきた。制裁は確実に効くのである。ちなみに菅前首相らが市民の会などに献金していた時期は、口座を封鎖していた時期とみごとに重なっている。類推するなら本来、北朝鮮から流れていたはずのカネを、菅前首相たちが立て替えていた、とみることもできる。
日本は「拉致問題が解決しないかぎり、絶対に支援しない」という立場を明確にすべきだ。同時に韓国やアメリカに対しても、強いスタンスを求めるべきである。少なくとも日米韓は同じ歩調を取るべきで、連携して北朝鮮に対峙しなければならない。
アメリカは2008年、ブッシュ政権末期に北朝鮮のテロ支援国家指定を解除した。われわれ拉致議連ではこれを問題視し、政府関係者やNSC(アメリカ国家安全保障会議)、国務省、国防総省の関係者、さらにはシンクタンクや議会にも、再指定を行なうよう働きかけた。今年7月にもワシントンを訪れ、同様の要望を出したが、非常によい反応を得たと聞いている。
また驚くことに昨年には、ブッシュ政権時代に国務次官補を務めたクリストファー・ヒル氏が「北朝鮮のテロ支援国家指定を解除したのは失敗だった」と誤りを認めている。ヒル氏といえばテロ支援国家指定解除を当時のライス国務長官に働きかけた張本人で、“キム・ジョンヒル”と揶揄されるほど北朝鮮寄りであった人物だ。そのヒル氏自身が自らの判断を「失敗」と述べたのである。「甘い顔をしていてはダメ」という認識は、いまや多くのアメリカ人に共有されているのだ。
朝鮮高校無償化の対応が試金石
さらに決議第三項目に関しては時間の制約もあって面会では触れられなかったようだが、菅前首相は8月29日というまさに退陣直前、凍結していた朝鮮高校無償化にあたっての審査を再開するよう高木義明文部科学大臣(当時)に指示した。ドサクサに紛れて行なった信じられない行動で、“空白の1日”を利用したという批判は免れない。
しかも無償化の凍結は、昨年11月23日の北朝鮮による韓国延坪島の砲撃を受け、菅前首相自らが決めたものである。今回の再開決定にあたって菅前首相は「砲撃以前の状況に戻った」と述べているが、北朝鮮は砲撃事件に対する謝罪を行なっておらず、8月10日にも韓国の延坪島付近の海上に砲撃を行なっている。潘基文・国連事務総長も11日、「半島情勢がいまだに安定していないことを如実に証明している」と述べている。
つまりはなぜ、砲撃以前の状態に戻ったのか、ということがまったく明らかになっていないのだ。さらには当時の松本剛明外務大臣の記者会見をみても、事前に綿密な協議や韓国との調整を行なった形跡はなく、まして中野寛成拉致問題担当大臣には、いっさいの相談がなかったという。
そもそも高校無償化にあたっての文部科学省の業務見解は、「教育内容は問題にしない」「外交問題とは分けて考える」というものだ。であればまず、砲撃を理由に凍結したこと自体がおかしいではないか。さらには「教育内容は問題にしない」という見解にも問題がある。朝鮮高校は朝鮮総連の下部機関であり、人事も、校長をはじめ全員が総連の関係者だ。教育内容も金日成の革命思想を教えていて、拉致問題一つとっても「日本のでっちあげ」とする教科書を使っている。
だからこそ、われわれ自民党は「朝鮮高校無償化手続きに強く抗議し即時撤回を求める決議」を採択し、石破茂政調会長から当時の枝野幸男官房長官にその決議を手渡した。この問題を野田首相は正面から捉え、菅前首相が指示した再開手続きを凍結できるのか。北朝鮮に対する態度が示される、まさに試金石といってよいだろう。
野田首相は、靖国参拝を封印するなど「保守」(といわれている)の理念をかなぐり捨ててでも党内融和を優先している。「市民の党」との関係についての説明責任、「拉致問題」への毅然たる姿勢、「朝鮮高校無償化」への対応などが問われているのである。
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