史上最年少記録を連発する稀代の棋士・藤井聡太は、その「個性」と「才能」をいかに育んだのか
2018年01月31日 公開 2020年07月22日 更新
将棋に関しては、師匠にも自由に反論していい
プロになる前のことです。対局後の感想戦の中の手筋の披露で、私が「こういう場面は、ここをこうしたほうがいいんじゃないか」といった意見を口にしました。
すると、藤井はあからさまな否定はしませんが、不服そうというか、納得していないような反応を示します。そこで「はい」とは決して言わず、奇妙な沈黙が流れるのです。
とはいえ、「いや先生、お言葉ですが……」という反論もしません。でもこれは絶対に納得していないんだろうなということは、はっきりわかります。納得している場合は、私の指摘に「ああ、そうですね」と答えるので、逆にわかりやすい。
よくいえば芯が強くて妥協がないということですが、悪くいえば頑固でマイペースです。
しかし、これはプロ棋士になるに当たって必要な資質です。逆にいうと、言われたことをそのまま実行するような素直な性格は、残念ながらプロにはなれないということです。
私は弟子たちには入門前に必ず言うことがあります。それは「将棋に関しては、師匠だからといって遠慮する必要はない。違うと思ったら、自由に反論してもいい」ということです。
もちろん、師匠であり年長者なので、将棋以外の指示や依頼には従ってほしい。ただし、こと将棋に関しては別です。
師匠の指摘や意見に対して、「いや、それは違うと思います」とか「私はこういう考えでやっています」と反論していいし、師匠の言うことにそのまま従う必要はありません。
ただし、それは自分の信念、確たる理由があってのことです。
だから、決して納得しない藤井は、私が申し伝えたことを忠実に実行しているだけなのです。
今の子どもたちは、一言で言うと従順です。執着心がない子が多いと感じます。
かといって「もっと勝負に執着心を持たなければだめだ」と言われて、「はい、わかりました」と簡単に納得しているようでは、これもまたお話にならない。これまでの言動に自分の信念がなかったということだからです。
将棋の世界は優等生や好青年であることが意味をなしません。
みんなから好かれて応援される人間であることは、プロになることに際して何の手助けにもならないのです。
だから、将棋に関する自己主張はいっこうに構いません。むしろプロ棋士は例外なく、将棋について絶対に揺るがない信念、ここだけは妥協しないという確たるものを持っています。