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人生100年時代、「一生使える脳」をどうつくるか?

長谷川嘉哉(医学博士、認知症専門医)

2018年02月07日 公開 2022年06月30日 更新

65歳以上の7人に2人が認知症発症と、その“予備群”となる

こうした「人生100年時代」の長生きを「幸せな長生き」にするために最も重要なことは、脳のパフォーマンスを保つことです。

年齢を重ねても明晰で、知的生産を行うことのできる「一生使える脳」を育めるかどうかで、人生の彩りも、健康に働き、稼ぐことのできる年齢も変わってきます。

2012年の厚生労働省の調査によると、65歳以上の高齢者は過去最高の3079万人となり、そのうち、認知症と診断された人は約462万人。しかし、この数字は氷山の一角に過ぎず、同調査では認知症になる可能性のあるMCI(軽度認知障害と呼ばれ、認知症予備群と診断される)が疑われる高齢者も約400万人いると報告されました。

その数は合わせて約900万人。実に65歳以上の7人に2人が認知症発症と、その“予備群”となる計算です。ただし、臨床の現場での実感からすると、MCIの統計は推計に過ぎず、今後、調査が進めば患者数はさらに増えるだろうと見ています。

このMCIは「一生使える脳」を保てるかどうかの運命の分かれ道です。そのまま認知症に進展してしまうのか、それとも一日も早く対応を開始して、ボケを遠ざけていくことができるのか。MCIは思考力や判断力の衰えは見られない状態で、必ず認知症に進展するわけでもありません。この時点で受診し、意欲をもって自分の力で脳を鍛えれば、認知症にならずにすむ確率は確実に高まります。

かつて脳科学の世界では、人の脳細胞の数は生まれたときがピークで年齢を重ねれば重ねるほど減っていき、回復しないと考えられてきました。

「生涯を通じて脳細胞は減り続ける」

そんな話を聞いたことのある人は多いはずです。

しかし、25年前には当然のように語られていた常識も、現在では誤りであったことがわかっています。最新の脳科学の研究では、脳への適切な刺激と生活習慣の改善によって、何歳でも脳のパフォーマンスは向上することがわかってきたのです。

より専門的な話をすれば、1970年代、1980年代の脳科学は、「脳細胞が再生産されることはない」と言い切っていました。この世に生まれ、発達上の重要な時期(7歳前後)を過ぎれば、脳細胞が増えることはなく、減っていく。失われた脳細胞が元に戻ることはない。これが当時の常識でした。

ところが、現在の脳科学の研究は、マウスを使った実験ではあるものの、脳内では老いてもなお、まったく新しい脳細胞がつくられていることを発見しています。また、MRIによる画像診断技術の進歩によって、人の脳でも「脳の容積が増える」という現象が確認できています。

こうした結果を踏まえ、人の脳の変化を観察した例もあります。ハーバード大学の神経科学者アルバロ・パスカル=レオーネは、脳の変化に関する研究で世界屈指とされる科学者です。

そのレオーネが参加した実験は、少数の被験者に月曜から金曜日の夜までの5日間、ずっと目隠しをしたまま生活するというもので、アメリカのボストンにあるベス・イスラエル・ディアコネス医学研究所で行われました。

この間、被験者はできる限り、普段通りの生活を送ったにもかかわらず、5日後には脳の視覚野が触覚による刺激に反応するようになったのです。これは視覚からの情報が途切れ、使われなくなった視覚野の一部が、手で触れたときの触覚を処理する回路として使われるようになったことを示しています。

わずか5日間、視覚よりも他の感覚に重きを置く生活をしただけで脳は変化しました。
 

脳を使い続けている人は、脳が萎縮しても機能は衰えていない

たしかに、加齢による脳のパフォーマンスの低下はあります。しかし、それは脳をうまく使う意識と習慣のない人の場合です。高齢者の脳の画像を見ると、年齢とともに少しずつ脳が萎縮していくことが見て取れます。しかし、年齢を重ねても脳を使い続けている人は、萎縮が出ていても機能に衰えは見られません。

「成人以降、脳は成長しない」
「老化によって機能が失われていくだけ」

こうした考え方は、最新の脳科学では否定されています。

脳をうまく使うことを意識し、習慣化すれば何歳からでも脳のパフォーマンスを上げていくことができるのです。
 

※本記事は、長谷川嘉哉著『一生使える脳』(PHP新書)より、一部を抜粋編集したものです。

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