「人が育つ会社」とは~青木仁志・アチーブメント社長
2018年05月25日 公開 2023年10月04日 更新
「本物の成長」へ導くプロフェッショナルの実践哲学
「働きがいのある会社」ベストカンパニーに立て続けに選出され、注目を集める人材教育コンサルティング会社アチーブメント。社員の意欲を引き出し、本物の成長へと導く育成に定評があり、社内外に数多くの人財を生んでいる。社員が「みずから育つ」というその人づくりの要諦とは何か。松下幸之助哲学に傾倒する青木仁志社長にうかがった。
取材・構成:平林謙治
写真撮影:長谷川博一
社員にとって会社は最高の自己実現の舞台
人間には誰でも、ニつの“命”が授けられている――人が育つプロセスを追究し続ける中で、私はそう考えるようになりました。第一は親からもらった生命。もう一つは本当の意味での「使命」です。生きる意味と目的。自分は何のために、どう生きるのか。これらに出合った時、人は使命という二つ目の「命」を得て、急速に成長し始めます。
内発的な動機づけにもとづいてみずから目標を設定し、いったんそれに向かって本気で働き始めると、その人の成長を抑えることは、もはや誰にもできないと言っても過言ではありません。内的コントロールにもとづいて働けば働くほど、それがいかに楽しく、どんなに自分を躍動させるか、嫌でも肚に落ちるので、求める心がどんどん強まっていきます。「上司に言われたことだけやる」「もらえる給料の分だけ働く」というような、外的コントロールによって縛られた働き方には甘んじていられなくなるのです。
経営者の方からは「今の若者はきついとすぐに辞める」という声をよく聞きますが、それは、きつくても頑張ることに、やりがいや歓びを感じられないからでしょう。仕事にみずからの生きる意味や目的を見出すことができれば、職場が自分にとって有意義な自己実現の場であれば、どんなにきつくても人は辞めません。
人が集まり、人が育ついい会社は、社員一人ひとりにとって、最高の自己実現の舞台であるはずです。「自己実現」と言うと、ただ自分のやりたいことだけを達成して、自己満足を得られればいいと安易にとらえる人も、なかにはいるでしょう。しかし、そういう社員や部下を正しい方向に導く支援をするのが経営者・上司の使命です。
もちろん、容易なことではありませんよ。特に若い人は、全く訓練されていないわけですから。自分は何のために、誰のために生きるのか。人生の目的も見えず、生きがいもわからず、悶々としながら、とりあえず就活を乗り切ってきたという人がほとんどですからね。ガミガミ叱ったり、説教したりの外的コントロールはまさに逆効果です。
その代わり、当社では「セルフカウンセリング」を徹底して実施しています。
「私にとって一番大切なものは何か」「私が本当に求めているものは何か」「それを手に入れるために、私は今何をしているのか」「その行動は、本当に効果的か」「もっといい方法はないか」など――要は、みずからの内発的動機を呼び起こし、それに改めて気づくきっかけとなるような自問自答を、毎朝、社員全員で励行し、内的コントロールを深めているのです。しかも、“主語”を変えながら。それが当社の「セルフカウンセリング」のキモでしょう。
つまり、「私」を「お客様」「経営者」「上司」などと置き換え、「お客様が本当に求めているものは何か」「経営者にとって本当に大切なものは何か」と、自分自身に問いかけていきます。そうすることで、「私」の自己実現が単なる自己満足に矮小化されないよう、企業の発展と個々人の自己実現を絶えずすり合わせているのです。
企業の礎が、経営理念にあることは論を俟ちません。うちの会社は何のために存在するのか。なぜこのビジネスを行なっているのか。経営者が掲げる経営理念こそが、会社の存在理由であり、事業活動を行なう根本的な動機です。
この経営理念と社員一人ひとりの人生の目的や使命感がうまく噛み合い、企業が目指すビジョンと個人の自己実現の方向性が一致すれば、組織は個人の成長を支援し、個人は組織の発展の原動力となって、Win‐Winのサイクルが回っていく。これが私の考える「人が育つ会社」のあり方なのです。
※本記事は、マネジメント誌「衆知」2018年1・2月号特集「若い力を育てる」より、一部を抜粋したものです。