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安藤忠雄 × 松下正幸 大阪らしい発想と企業精神とは

「志」対談

2018年06月19日 公開 2022年08月18日 更新

祖父・松下幸之助の「志」を引き継ぐ松下正幸が、各界VIPが抱く強い志の核心に迫るシリーズ。今回は、マネジメント誌「衆知」2018年3-4月号掲載、建築家・安藤忠雄氏との巻頭対談より、その一部をご紹介します。

安藤忠雄(建築家)
あんどう・ただお*1941年大阪生まれ。独学で建築を学び、1969年安藤忠雄建築研究所設立。代表作に「住吉の長屋」(日本建築学会賞)「光の教会」「大阪府立近つ飛鳥博物館」「フォートワース現代美術館」など。海外名門大学の客員教授を歴任し、1997年東京大学教授、現在、名誉教授。日本芸術院賞、国際建築家連合ゴールドメダル、文化勲章、フランス芸術文化勲章(コマンドゥール)など受賞多数。

松下正幸(パナソニック副会長、PHP研究所会長)
まつした・まさゆき*1945年生まれ。1968年慶應義塾大学経済学部卒。1968年松下電器産業入社後、海外留学。1996年に同社副社長就任。2000年から副会長。関西経済連合会の副会長を務める一方で、サッカーJリーグのガンバ大阪の取締役(非常勤)を務めるなど、文化・教育・スポーツの分野にも貢献する。

取材・構成:高野朋美
写真撮影:白岩貞昭
 

大阪らしい発想をもっと大事にすべき

安藤 建築は、「つくること」と「残すこと」の両方をやっていく必要があると思っています。以前、神戸の北野町(神戸市中央区)にある異人館の保存運動に参加して走り回ったことがあるんですが、大阪心斎橋の大丸百貨店、大阪市中央公会堂も歴史的な建物です。そうした「人の心に残る建物」は、壊してはいけませんね。

ただ、保存運動をやっていても、無学ですからなかなか相手にしてもらえない。「それでも続けよう」と思って、能天気に構えていました。そんなふうですから、周囲の人には歓迎されませんよね。私のような人間は、大阪はもちろん、東京ではもっと歓迎されない(笑)。

松下 いやいや、そんなことはありませんよ。

安藤 でも、時々、私を面白いと思ってくれる人が現れましたね。2004年に松下電器(現パナソニック)の「さくら広場」の設計をさせていただきましたが、当時の中村邦夫社長のご決断は、すごいことだと思います。

本社のある大阪の門真市と、豊中市、神奈川県茅ヶ崎市、千葉県の幕張の4カ所につくった1万坪にも及ぶさくらの公園は、今や市民の憩いの場です。東京の企業の発想では、あんなことはまず起こらない。

大阪には、企業の利益を社会に還元しようという公的精神があるんでしょうね。その点では、大阪に生まれ育ってよかったなと思っています。

松下 以前、安藤さんがご講演で「大阪はもうあかん」とおっしゃっているのを聞いて、「安藤さんのような影響力のある方が、そんなことをおっしゃらないでください」と申し上げたことがありましたね。もちろん、大阪をすごく愛していらっしゃるがゆえに、そうした表現となって出てきたのだと思いましたが、今改めて大阪への深い愛着をうかがえました。

安藤 「大阪があかん」というより、一番の大きな問題は、東京に一極集中していることです。みんな東京へ行ってしまう。でも、日本は東京だけで成り立っているわけではありません。それぞれの地域に、その地域のよさを持った街をつくり、企業はそこで育っていかないといけないと思います。
 

利益は冥土に持って行けない

安藤 明治時代を代表する建築家の辰野金吾さんは、日本銀行本店や東京駅などを手がけたことでよく知られていますが、意外なことに辰野さんが最初に事務所を開設したのは、東京ではなく大阪なんです。当時の大阪には経済的なパワーがあったがゆえに、辰野金吾という偉大な建築家が事務所を構えたのだと思うのです。

私も、サントリー2代目社長の佐治敬三さん、三洋電機4代目社長の井植敏さんなど、大阪の偉大な経営者たちにいろいろとお世話になりました。佐治さんは常々、「面白くて希望を持って青春を生きている人間と遊びに行く」とおっしゃっていて、よく飲み代を払っていただきました。かつての大阪には、こういう人がたくさんいた。しかし今は、東京を追いかけるあまり、少しおかしくなっているような気がします。

松下 やはり大阪らしさが弱くなってきているのでしょうね。

安藤 大阪は中小企業が強い街ですが、近頃は稼いだお金を冥土にまで持って行こうとしている経営者も少なくないと思いますよ(笑)。そうではなく、せめて儲かっている時ぐらいは、社会還元を考えたらどうですかと言いたい。サラリーマンではそんなにお金を貯められませんから、お金を持っている経営者が大阪らしい企業精神で社会還元すべきだと思っています。

松下 自分のためだけでなく、お金を社会のためにも上手に使うということですね。

安藤 ええ、その通りです。社会還元することで人の役に立てるばかりか、社会とのつながりも生まれて、自分の感性を磨けるじゃないですか。例えば、美術館に寄付すれば、美術と無関係ではなくなる。すると、感性を磨くために文学を読む。いろいろなことを考えるようになるんです。

聖徳太子が建立したとされる大阪の四天王寺には、松下幸之助さんが寄進された「極楽門」やお茶室「和松庵」がありますよね。それらを通じて、聖徳太子の時代からの歴史を感じることができる。幸之助さんが残された足跡は、本当に大きいですよ。

経営者のそういう心意気は、人々に伝わるものです。今、大阪駅前を再開発する「うめきた二期」の基盤整備が進んでいますが、全面的な緑化を目指すそうです。大阪駅を降りたら森があるんです。そんなことをしたらメンテナンスが大変だという声がありますが、それを考えるのがリーダーの仕事です。大変なのを承知でリーダーが「やる」と言えば、「じゃあ自分たちは森づくりに寄付しましょうか」という市民がたくさん出てくると思うんですよ。

松下 「うめきた二期」については経済界でも、「大阪は森が少ないから、できるだけ緑の面積を増やそう」と考えています。ただ、それをどうやって経済的に成り立つようにするか、その手法を考えていかなければいけないでしょうね。

大阪は元々あまり行政の力を借りずに、何でも民の力でつくってきた歴史があります。大阪にあまた架かる橋だってそうですし、サッカーのガンバスタジアム(パナソニックスタジアム吹田)も、寄付でつくったものを市に寄贈しているわけです。大阪にはそういう伝統がありますよね。

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