『本所おけら長屋』を語りつくす!“セキララ”座談会
2020年05月02日 公開 2023年10月12日 更新
タイトル、あらすじを簡潔にまとめている、桑原さんのマル秘メモ。
泣いた&笑った!どの話がお気に入り?
いやはや。“架空のキャスティング”、ずいぶんと盛り上がりってたね。さてさて。お待ちかねのお料理とお酒です。召し上がりながら、座談会の後半戦を進めようじゃありませんか。
作者としては聞きにくい……ですが、好きな回(話)を教えてください。
なんといっても、1巻の最終話「ふんどし」です。はじめにお話した「湯の子」がひとつのテーマでもあって。長屋のおせっかいで「相撲大会で優勝したら夫婦になる」ってねぇ。いい話だ。なのに、2巻で「湯の子」の父親が名乗りでてくるんだもの、もうっ!
俺に怒らないでくれよ(笑)
怒っているのじゃなくて褒めているんです(笑)。1巻から2巻への引きがスゴ過ぎました。
「ふんどし」で終わったのがあまりにも出来過ぎで。もう一波乱起こさないと、と。シビアなことなんだけれども、万松がいることによっていろんなことが緩和される。ふざけていても、こいつらが本質を突いているという。
たしかに。そういう観点では9巻の「おてだま」「かんざし」「うらかた」の流れにも感服です。
「あれ? これで終わっちゃうの?」と、読者を消化不良な気持ちにさせておいて、最後につなげるという。それが……おっと、いけない! ここでネタバレや解説をしてしまうと新しい読者を開拓できない(笑)。みなさん、手短にお願いしますよ。
ぐ……しゃべりたい、という気持ちを抑えて(笑)。
私は5巻の「ねのこく」です。武家屋敷に幽霊が出るというお話で、金太が都合よく使われているところが可愛いし、あの肝試しのシーンには思わず笑ってしまった。
幽霊を成仏させてあげるために、万松がひと肌ぬぐのがまたいいんだよね。
幽霊の世話までしちゃうんだもの(笑)
とうとう、幽霊まで出てきちゃったのかと(笑)。私の一番のお気に入りは、3巻の「てておや」です。大家の徳兵衛さんの娘として、お孝さんが登場して。薬種問屋の木田屋さんとお満ちゃんという“親子のやりとり”がふたつもあって。
そしてまた7巻の「あまから」で、お孝さんのところに徳兵衛さんが遊びに行って、ねずみ小僧の兄弟につながるという……。
そう! 偶然、そこに泊まるなんて。すごいよくできてる!
都合がいいのは、小説ですから勘弁してください(笑)。
「てておや」は私もすごく好きで。木田屋さんが、「治療代や薬代を払えない貧乏なお医者には、薬をタダ同然で分けている」というところにジンときてしまった。
ホント、『おけら』では、そんなふうに、すぐ泣かされちゃう。
でも、次の瞬間、笑ってる。泣いてすぐに笑えるって、ほかにはない!
究極のデトックス小説ですよねぇ。泣けるというか、連続でグッとくるのが、1巻の「もののふ」です。清水寿門の禅問答のような名言が多すぎる! この話で“おけら中毒”になりました。
私も「もののふ」好きだ!
本当に大事なものは、肩書きや目先のことじゃないというくだり。この、切羽詰まったところでグッときましたね。落ち込んでいる寿門の言葉にもポロポロっときて……私、この話を朗読したことがあるほど。
では、<商人にとって一番大切なものとはナニか?>を訊かれて答える、鉄斎のセリフを読んでみますか(笑)。
<金でしょう。だが、その金を作るのは信用です。ですから金より信用のほうが大切なのかもしれません。金は落としても、また稼げますが、一度失った信用を取り戻すのは難しいですから>
一同 くーっ! すごくいい! みんな、読んだらいいのに!