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生き方

この時代、仕事に全身全霊を捧げて本当にリターンはあるのか?

成毛眞(HONZ代表)

2018年11月08日 公開 2022年11月30日 更新

遊んでいる時間がなかった三十代前半の頃の私

今でこそ、面白いと思ったものにはあれこれと手を出している私だが、三十代前半の頃はほとんど遊んでいる時間がなかった。伸び盛りのマイクロソフトという(当時の)ベンチャー企業のマーケティング部門で働いていたので、昼も夜も人と会っていたからだ。

急成長中のベンチャー企業は、いくら人を募集しても追いつかず、採用しても十分に研修をする時間がないという具合で、そこそこ給料をもらっても、それを使う時間がなかった。

自由にできるのはほんのわずかな時間だけで、そこでできる遊びと言えば、ただただ取引先や仲間と酒を飲むことだけだった。歌舞伎見物に出かけたりプラモデルをつくったりなど、とてもではないけれどできなかった。

この頃の唯一の楽しみは読書だった。読書のためだけに会社への行き帰りにタクシーを使って一人になる時間を確保し、そこでむさぼるように本を読んでいた。

おそらく、そうやって時間を捻出していたあの頃のほうが、HONZで書評を書いている今よりも、多くの本を読んでいた。理由はわかっている。そのときは読書が本当に、心から、楽しかったからだ。

今も読書は好きだ。新しい本を手にすればワクワクするし、知らなかったことを知るのは面白い。しかしHONZが半ば仕事化したことで、以前のように無心に楽しむことができなくなってきた。

書評に"使える"文章に遭遇すると付箋を貼るのに忙しくなり、文字を追い意味を咀そ嚼しやくする喜びが半減してしまうのだ。やはり好きな遊びは仕事にするべきではない。

しかし、高じた好きを仕事にしている人もいないわけではない。

東京大学のレゴ部は、毎回つくる作品のスケールが大きいことで有名だが、そのレゴ部創設者の一人に、三井淳平氏がいる。子どもの頃からレゴが好きで、高校時代からその世界では超有名人だった。

大学に入ってからもそれは変わらず、安田講堂や、40分の1スケールの戦艦大和(これは個人制作)をつくってきた。大学院修了後、一時は大手鉄鋼メーカーに勤めたが、レゴを仕事にしたいと退社し、レゴで起業して現在に至っている。この三井氏にとっては、今の仕事ほど楽しい遊びはないだろう。

こういった希け有うな人のことは、メディアが多く取り上げるので、自分の周りにたくさんいるような錯覚を覚えてしまう。しかし実際には、とても珍しい存在だから取材されるのである。やはり遊びを仕事にできる人は、ごく限られているのだ。

遊んでいるように仕事をしている人といえば、陶芸、蒔まき絵え、織物、染色など、伝統工芸系の職人もそうなのではないか。彼らが仕事の愚痴を言っているのを聞いたことがないし、その姿も想像できない。

おそらく彼らは、その仕事を仕事とは思っていないのだろう。仕事につきもののやらねばならないという義務感、やらされているという強制感を感じないから、楽しく働けているのではないか。

もしも今の仕事に義務感、強制感を覚えている人がいるなら、遊びでもそうなってしまうのは避けなくてはならない。

何度も言うようだが、多くの人にとって遊びは仕事ではないのである。一生懸命、遊んではならない。子どもの頃にしていたように、好き勝手に、いい加減に遊ぶに限る。

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