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自分で考え行動する教員 やまた幼稚園 国際バカロレアへの挑戦

谷澤満(学校法人栗原学園グループ理事長)

2018年12月25日 公開 2019年01月22日 更新

東京の都心部ではなく、横浜や川崎という周辺部からの挑戦

――世界で闘える立派な日本人を作りたいという思い、志を強く感じます。

(谷澤)「闘う」というより「通用する」といった表現の方が適切かもしれません。海外におらずとも、不足する労働力を海外から補おうとするなら、国内においても異なる出自の人と社会を築いていく能力は必要でしょう。

全員が高い水準で英語を習得する必要があるとも思いませんが、明治以来、外国の知識や技術を日本語に翻訳して国内に普及させる役割を担う人材は、国内の高い教育水準を維持するには必要ではないでしょうか。また、母国語を深く理解する意味でも外国語の習得は有用であろうと思います。

栗原学園グループの「経営理念」は元々、京セラの経営理念をアレンジしてつくったものです。当初は「幼児教育を通じた地域社会への貢献」および「職員の物心両面の充足」でした。

そしていま前者は、「次世代の育成を通した地域社会への貢献」とバージョンアップしており、英語教育の強化もまさにこの経営理念を実現させるものなのです。

また、運営を引き継いだ川崎市の「ひよし保育園」では、もともとの古いコンクリート造りの園舎を建て替えし、ゼロからわれわれが設計し直して、リニューアルオープンさせました。木でできた雰囲気・環境がとてもすばらしいと、各地から視察に来られます。

このように、新しいことにどんどんチャレンジし、教育業界の先駆者になれば面白いと、日々考えています。民間ならではの嚆矢、モデルケースになりたいのです。しかも東京の都心部ではなく、横浜や川崎という周辺部で実現させていくことに意味がある。

そしてこれらの施策は、「職員の物心両面の充足」という経営理念にある、「職員の心の充実」に確実につながっていくはずです。世の中から注目されることで、がぜん、やる気が湧いてくると思いますから。

――意識が高い先生方には、申し分ない環境ですね。

(谷澤)「職員の物の充実」にもつながっていくはずです。付加価値が高まり、顧客単価が上がり、さらには園児の数が増えれば、幼稚園の先生、保育園の先生の給料のレンジを引き上げることが可能になります。

先に述べた「国際バカロレア」を取得できた場合、やまた幼稚園で経験を積み、その世界で一人前と認められる先生として、世界各地で行われる研修で教えられるレベルになれば、年俸が1000万円を超えることも不可能ではありません。このようなチャンスに向かって、教職員が進んでいけるように考えています。

さらには、「教えることが好き」な優秀な教員を各地から集め、一緒に高め合っていきたい。そのためにも、たとえていうと、夫婦共働きで働いてこの地域で3LDKのマンションを買えるぐらいの給料を、先生方に出せるようにならねばならない。そう考えて、経営しています。

 

『成功への情熱』の「英日バイリンガル版」で輪読会

――「職員の心の充足」についてもう少し。「先生方への心の教育」は何かされていますか?

(谷澤)私は稲盛さんの“人生の成功は「考え方×熱意×能力」で決まる”という方程式が好きで、これをみなに意識してもらうようにしています。

採用の際には、「考え方」をもっとも重視し、採用活動で使うエントリーシートでは、「考え方」を図る問題を出しています。例を挙げると、「あなたは運がいいですか、悪いですか。どちらかを選んで、その考え方を述べてください」とか、「世の中は進歩していると思いますか、退歩していると思いますか。あなたの所得と世の中の進歩を関連づけて述べなさい」、「学校法人とか社会福祉法人が利益を上げるのはいいことですか、悪いことですか」などです。

この3つの問いに対して、難しく答えるタイプの人は、育てるのがなかなか難しい。素直に答えられる人を採用し、その後、「考え方」、「熱意」、「能力」を磨いてもらうというやり方です。

――「考え方」を磨いてもらう、ですか。

(谷澤)そのためにいわゆる「フィロソフィ教育」として、先生方は稲盛和夫著『成功への情熱』の「英日バイリンガル版」を毎朝、輪読会で読み、当番の人が日本語と英語の両方で所感をスピーチしています。

最初は「道徳の教科書みたいな本」と面喰らっていたようですが、いまは皆、とても熱心に取り組んでいますよ。これはお寺で座禅を組んで学んだり、日曜日に教会に行って教えを受けることと、同様の効果があるのかもしれません。「正しい考え方」や「仕事の目的」、「生きる意味」を職場で毎朝、学ぶことができるのです。

また、教職員には、国内はもとより、台湾やニュージーランドやフィンランド、イタリアなどに視察・研修に出て行ってもらっています。海外のユニークな事例を肌で感じることで視野も広がるし、大いに刺激も受けるのです。

一方「ミカンの木に蝶がひらひら飛んでくるような園庭」や「教室と園庭がスムーズにつながっていて、外と中でシームレスに子供たちを遊ばせる」幼稚園など、同じような発想を持っていることを感じることもできるでしょう。

栗原学園グループで頑張っていれば、海外視察のチャンスもあるし、いろんな学校を見られる。それが教職員のモチベーションを高めることにつながればと、思っています。

――先生方もどんどん成長していくのですね。

(谷澤)そもそも園児の成長を促すには、園児へのアプローチだけでは足りません。保護者はもちろんのこと、教える教職員自身が正しく生き、成長せねばならないのです。

教育とは全人格を見せることです。テクニックを伝えるのではなく、背中を見せることで教えていく。だから先生方には人間性が求められるのです。それを皆、わかってくれていると思います。

教職員がお互いに、将来をどう見ているかを語りあい、社会にどう貢献するかを考えるようになる。そして、夢を広げ、その実現に向けて努力するようになる。まだ不十分ですが、皆でそんなところまでいきたいと思っています。

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