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生き方

あなたの人生に必要な本、不要な本の見極め方

名越康文(精神科医)

2018年12月17日 公開 2024年12月16日 更新

なかなか読み進められない“頂の本”を持っておく

冒頭で分けた3つのパターンの本のうちで最高のレベルのものが「読めない本」です。

岩にかじりついてジリジリと少しずつ登る険しい山のような “頂の本”。まさにジリジリという感じで、スイスイ読むことができない本です。
その分野の頂にあるエベレストみたいな本はたくさんあるわけではなく、自分の興味や資質に合わせて絞れば、せいぜい2、3冊です。

たとえば私は埴谷雄高(はにやゆたか)の本が大好きですが、『死霊』(講談社文芸文庫)は全9章のうちの第4章までしかまだ読めていません。第4章以降は私にとってフェーズが変わるからで、ずっと読めないままでいます。

もう1冊は、神秘思想家のG・I・グルジェフが生涯の集大成として書き上げた、大作『ベルゼバブの孫への話』(浅井雅志訳 平河出版社)という分厚い本です。もし私の寿命が80歳まであったら、80歳になるまでにこれを読んで死にたいというような本です。それに密教経典のひとつ『大日経』を、いつか全部読んでみたい。

年間200冊、300冊読んでいるような人なら、読みたい本もどんどん増えていくかもしれません。でも、私のように月に5冊レベルの人間は、死ぬまでに読んでみたい"頂にある本"は少ないのです。

自分が本当に読みたいけれどまだ読めない本、「ものすごく魅力的で挑みたいのだけれど、理解できなさそうで自分にはまだ読めない、でも将来的に読めるようになりたい」という本を、心の糧にしておく。

登山にたとえると、「いつかは剱岳に登りたいけどまだまだ準備不足だ」というような、自分がめざす"頂の本を"最低1冊。それが読書欲を刺激しますし、読むためのエネルギーになり、自分の壁を突破するきっかけになります。
 

タイミングが来るまであえて積読しよう

自分のアンテナに引っかかった本はとりあえず買って、置いておくこともオススメです。俗に言う「積読(つんどく)」です。私の場合は、買って1年くらい経ってから読み始めるタイミングの本もあります。

1、2、3章まで読み終わり、4章を読み始めたのが2年後という本もあります。自分の今の欲求に常に敏感になっているということです。

「あの本が読みたい」という読書欲が、いつ起動するかわかりません。数十冊ある積読のうち、大半は読まないかもしれませんが、とりあえずいつかは読むだろうという本は、出会ったときに購入しておく。

60代になったら読もうと思っている『ベルゼバブの孫への話』(G・I・グルジェフ著 浅井雅志訳 平河出版社)を、お金のある30代のうちに買う。場合によっては70歳、あるいは80歳を超えてもまだ人生があるようなら読もうと思ったわけです。そうなると、何か少し自分の人生の地図が見えてくるのです。

あまりわかりすぎてもよくない。かといって、自分が今人生のどの地点にいるのかがまったく見えていないのもよくありません。

しかし、実際には人生の地図があるわけがありません。それでも将来読む本は、自分の人生の上での灯台や一里塚になってくれる。

人生という限られた時間の時間割をつくる手がかりになってくれるのです。自分でも読むタイミングがわからないのですから、気になった本はとりあえず購入して置いておく。積読を悪いこととは思わないのです

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