かつて地球上の全生物の頂点に立っていた恐竜。その恐竜が滅んだ理由は一般的に「隕石の衝突」だとされるが、生物学者の稲垣栄洋氏によれば、「そもそも、生物史においては強者が滅び、弱者が生き残るということが繰り返されてきた」という。
「弱者こそが生命史を育んできた」というユニークな視点から新著『敗者の生命史38億年』を上梓した稲垣氏が、恐竜絶滅を始めとする「大量絶滅ビッグファイブ」と、その中で生き延びてきた「弱者の戦略」について説く。
※本稿は稲垣栄洋著『敗者の生命史38億年』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです
「5回の大量絶滅」が生物を襲ってきた
地球の歴史の中でも、大繁栄していた恐竜が絶滅してしまったことは、大事件である。
しかし、じつは地球の生物は、それ以前も何度も絶滅の危機を乗り越えてきた。
古くは何度かのスノーボール・アース――地球全体が氷に覆われるほどの激しい環境変化を乗り越えて、単細胞生物たちは生き延びた。
その後、生物が著しく進化を遂げて、動物の化石が発見される時代になってからも、生物は少なくとも5回の大量絶滅を乗り越えてきたと言われている。この5回の大量絶滅はビッグファイブと呼ばれている。
大量絶滅の要因については、わからないことが多い。しかし、気候の変動や地殻変動、大気の組成の変化などの地球環境の変化によって起こったと考えられている。
最初の大量絶滅が起きたのは「海の時代」
最初の大量絶滅は、古生代オルドビス紀末(約4億4000万年前)である。オルドビス紀は、オウムガイや三葉虫が活躍した時代である、また、頭部や胸部を厚い骨の板で武装した甲冑魚のような魚類が海を泳ぎまわっていた。そして、地上には、最初の原始的な植物が上陸を果たした時期である。
古生代オルドビス紀末の大量絶滅では、地球上の種の84パーセントが絶滅したとされている。恐竜の絶滅した白亜紀の大量絶滅が76パーセントの種が絶滅したとされているから、その時期の大量絶滅よりも大規模だったのである。
二度目は古生代デボン紀後期(約3億6000万年前)である。
この時期には、陸上にはすでにシダ植物の森が形成され、昆虫が出現していた。そして、両生類が、上陸を果たしていた頃である。この大量絶滅では、種の70パーセントが絶滅したとされている。