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社会

「夜へのニッチ戦略」が、人類最大の武器となった

稲垣栄洋(生物学者)

2019年04月05日 公開 2023年01月10日 更新

キャラ被りの芸能人が生き残れない理由

「ガウゼの実験」と呼ばれる実験がある。

ガウゼは、ゾウリムシとヒメゾウリムシという二種類のゾウリムシを一つの水槽でいっしょに飼う実験を行った。

すると、どうだろう。水や餌が豊富にあるにもかかわらず、最終的に一種類だけが生き残り、もう一種類のゾウリムシは駆逐されて、滅んでしまうのである。

ニッチを同じくするものは、共存することができない。強い者が生き残り、弱い者は滅んでしまう。

これが、「競争的排除則」という原則である。

芸能界では、よく「キャラが被る」ということを嫌う。同じような特徴を持つ芸能人は、テレビ番組の中では二人はいらない。どちらかが出演できて、どちらかが使われない。まさに芸能界の生き残り競争と同じである。

ナンバー1しか生きられない。これが自然界の厳しい掟である。

そして、それはゾウリムシという単細胞生物の世界ですでに見られる原則なのである。

 

「棲み分け」という戦略

しかし、不思議なことがある。

似たような生物は共存することができない。ナンバー1のみが生き残り、ナンバー2以下の生物は滅びゆくしかない。

そうだとすれば、どうして自然界にはこんなに多くの生き物がいるのだろうか。

じつは、ガウゼの実験には続きがある。

ゾウリムシの種類を変えて、ゾウリムシとミドリゾウリムシで実験をしてみると異なる結果が観察された。じつは二種類のゾウリムシは、どちらも滅びることなく一つの水槽の中で共存をしたのである。

どうして、この実験では、二種類のゾウリムシが共存しえたのだろうか。

じつは、ゾウリムシとミドリゾウリムシは、棲む場所と餌が異なっていた。

ゾウリムシは、水槽の上の方にいて、浮いている大腸菌を餌にしている。

一方、ミドリゾウリムシは水槽の底の方にいて、酵母菌を餌にしている。

つまり、ゾウリムシは水槽の上の世界でナンバー1であり、ミドリゾウリムシは水槽の底の世界でナンバー1である。

このように、同じ水槽の中でも、棲んでいる世界が異なれば、競い合う必要もなく共存することができる。これが「棲み分け」と呼ばれるものである。

つまり、同じような環境に暮らす生物どうしは、激しく競争し、ナンバー1しか生きられない。しかし暮らす環境が異なれば、共存することができるのである。

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サバンナで行なわれている巧妙な「ニッチ戦略」

著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)

植物学者

1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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