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低賞感微 。 四川料理の神様の教え

斉藤隆士・熊本ホテルキャッスル社長

2019年04月17日 公開 2019年04月17日 更新


師匠の陳建民さん(中央)、陳建一さん(左)、斉藤隆士さん(右)
 

PHP言志録

料理人である私の師匠は、「四川料理の神様」といわれた陳建民師父です。テレビ番組『料理の鉄人』で有名になった陳建一は建民師父の息子で、私の弟弟子になります。

高校2年の夏、故郷の大分県竹田市から上京した私は、神田神保町の餃子の店「おけ以」で食べた餃子のあまりの美味しさに感激して料理人になる決心をし、中華料理人だった兄の勧めで師匠の弟子となりました。

師匠は調理場では無口で、威厳に満ち溢れていました。一方、料理をお客様に出すウェイターやウェイトレスにはとても優しく、いつも冗談を言ってお客様を楽しませていました。

調理場では厳しく、お客様には愛想がいい。私からすると、二重人格者ではないかと思えるほどの豹変ぶりでした。

師匠の口癖は、「料理は愛情」。本場の料理を基本としながらも、日本人の味覚に合う四川料理をつくり、麻婆豆腐、エビチリソースなどのメニューを世に広めました。

また、料理学校も創立し、数多くの弟子を育てました。私の生涯において、師匠との出逢いは、最大の僥倖といえるかもしれません。

私が33歳で熊本ホテルキャッスルの中国四川料理「桃花源」の料理長になった時、師匠を見習い、ウェイターやウェイトレスを大切にすることを心がけました。そして、調理場を出てテーブルのお客様に挨拶に回ることをみずからに課しました。料理の話をしながら、お客様の好みや家族構成までを頭の中に入れるよう努めたのです。おかげさまで、「中華はキャッスル」といわれるまでになりました。

熊本ホテルキャッスルは、1960年に開業しました。同年開催の熊本国体にご臨席される天皇皇后両陛下のご宿泊のために、地元の財界人が出資してつくった由緒あるホテルです。熊本城の真正面という絶好のロケーションにあります。

しかし、経営的には赤字が続きました。再建に向けては、意外にも料理人であった私に白羽の矢が立てられ、社長を任されることになりました。2003年、61歳の時のことです。料理人がそのホテルの社長になることは、全国でもほとんど例がありませんでした。

料理人は、料理長になってもみずから中華鍋を振り、生涯現役です。口先だけでなく、みずから行動する。「現場力」こそが大切なのです。

それは経営でも同じです。みずからトップセールスにあたり、お客様の宴会の時は人事・総務・営業のスタッフのみならず、管理職も総動員して、「常時全員フル稼動体制」で臨んできました。

どんな時でも私が大事にしているのは、師匠の座右の銘である「低賞感微」という考え方。「低」は腰を低くし、「賞」はほめる、「感」は感謝、「微」は笑顔です。今も手帳に書いてみずからの戒めにしています。

これからも生涯修業と肝に銘じて精進し、出逢いを大切にして、市民に愛されてきた伝統あるホテルを全従業員とともに守っていきたいと望んでいます。

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