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生き方

辛抱の木に花が咲く~藤本加代子・フジモトゆめグループ代表

PHP言志録

2019年01月03日 公開

銀行員だった夫は、結婚してすぐ、医者になるために大阪大学医学部に再入学し、眼科医になりました。病院勤務を経て開業してからは、当時は珍しかった白内障の日帰り手術を行なったことで、眼科は大盛況となりました。それに加えて、医学部在学中から始めた大学受験専門の進学塾も大人気でした。二人の子宝にも恵まれた私は、友人たちから「『加代子』と書いて、『しあわせ』と読むのよ」と冷やかされるほど、幸せな専業主婦でした。

ところが、夫が44歳の時、病気で急逝しました。天国から地獄とはこのことです。

お坊様が「泣いてばかりではダメですよ。ご主人にお土産話をしてあげられるように頑張りましょう」と励ましてくださいました。私はいつか主人の元に行った時、お土産話をして褒めてもらえることを楽しみに、主人の事業を継ぐことにしました。

とはいえ、私は経営のイロハも知らない素人です。眼科は患者様が減り、塾の経営も不安定になりました。塾の講師の中には、「あなたにこの大学受験の問題が解けますか」と厳しい言葉をかけてきた人もいました。言いたいことはたくさんありましたが、事業を存続するためには、すべてを飲み込み、耐えるしかありませんでした。

そんな時、ある方からこう教えられたのです。

「人生は辛抱。辛抱の木に花が咲く」

人間とは不思議なものです。この教えを心の支えにして辛抱しているうちに、多少のことでは腹が立たなくなりました。

そして何より、夫が事業を始めた原点に立ち返ることが大切だと思い至ったのです。どうすれば患者様や塾生が喜んでくださるのか。どうすれば職員が気持ちよく働いてくれるのか。それを第一に考えて、思いつくことはすべて実行しました。

そうするうちに、私はだんだんと仕事が楽しくなり、職員たちもわが子のように可愛く思えるようになったのです。それは、私の母性が経営においても開花したようなもので、「母性の経営」とでも申しましょうか。同じ仕事をするなら、職員たちが誇りを持って働ける最高のものを生み出し、みんなでもっと幸せになりたい、と思うようになりました。

主人が亡くなって26年が経ち、現在、フジモトゆめグループは、650名のスタッフを擁するまでに成長しました。白内障の手術件数が年間1000件を超える「医療法人敬生会 フジモト眼科」と、東京大学をはじめ、国公立大学医学部などに多数の合格者を輩出する「高等進学塾」、医学部への合格率の高さを誇る「医進予備校MEDiC」、そして私が起業し、夫の名前を冠した「社会福祉法人 隆生福祉会」からなります。

隆生福祉会が理念に掲げている「ホスピタリティあふれる介護」は、福祉先進国フィンランドの国立専門学校の教材に採用され、視察に訪れる人が後を絶ちません。また、同会が運営している保育園は、「東大に入るより難しい」といわれるほどの人気を博しています。

辛抱の木に花が咲きました。夫は、「加代子、偉かったね。よくやったね」と褒めてくれるでしょうか。

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