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生き方

「母親は産んでくれただけの人」と割り切った娘の本心

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2019年11月22日 公開 2023年07月26日 更新


(写真はイメージです)

<<つらく厳しい境遇でそのまま落ち込んでしまう人と乗り越えられる人。その差を分けると注目されている能力が「レジリエンス」。アメリカで論文が多数発表されるなど注目される心理学理論で、簡約すれば「人生の挫折に対処する能力」である。

早稲田大学名誉教授の加藤諦三氏は新著『どんなことからも立ち直れる人』にて、挫折や落ち込みから立ち直り、ポジティブに生きられる人は共通してこの力をもっていると記している。

本稿では同書からある女性の例から、「レジリエンス」とはどういうものかを伝えている一節を紹介する。>>

※本稿は加藤諦三著『どんなことからも立ち直れる人』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

娘を父親に会わせようとしない母親

悩んでいる人は29才の既婚女性である。夫は35才。
子どもは3人いる。

彼女が3才の時に、母親と父親は離婚した。
ただ離婚する以前から、彼女は父親と会っていない。

母親は彼女を父親に会わせない。

母親は「父親には借金があった」と言う。
彼女に父親を会わせないのは、「会うと父親が彼女にお金をせびるのではないかと心配だからだ」と母親は言う。

母親は父親に恨みがあって、娘に会わせたくない。
最近彼女は母親と仲がよくない。
そして「母親とも会わない方がよいな」と思いだした。

彼女は親の愛を断念して、親とは余りあわなくする。

これが、プロアクティブ(起きたことに対処する)である。
断念も行為である。フランクルは最大の行為だという。

親の愛を断念して、親とは余り会わないようにする。
これはプロアクティブである。レジリエンスである。

彼女は母親に近づかない。
この人は産んでくれただけの人。きっぱりと線引きをして母親を見る。

家族以外にも心の温かい人がいる。ここがレジリエンスである。「ここしかない」と思わない。

ここになければ「あるところに行く」、それがレジリエンスである。人がいなければ本を読めばよい。

レジリエンスのある彼女はイヤな人と関わらないようにしている。

イヤな人は、ほっておく。追求しない。批判もしない。これは彼女の能動性である。受け身の人はリアクティブ(対処する意志がない)である。ほっておけない。

母親とは「関係ない!」と本当に思えるようになりましたと彼女は言う。

この女性は事態を正しく捉えている。

レジリエンスの育成で大切なことは、自分が出会った困難の本質を理解することである。

悩みの本質を見抜けなければ、対処はできない。
その悩みが何であるかを理解することが第一である。
些細な悩みでも疲れていると凄いことに感じてしまう。

冷静に悩みの本質を見抜けなければ元気に生きていけない。

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心を支えた「いつか会える」という希望

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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