「それって、エクセルのマクロでできますよね」に困り顔
このカンファレンスが始まった最初のころに、会計士の方々に「いちばん自動化したい仕事は何ですか?」と聞くと、「エクセルでのデータ編集」という答えが返ってきました。エクセルにデータを入力するなどの作業は面倒だというのです。
そして、ある会計士の方が、「AIでなんとかなりませんか?」と言いました。AI研究者が、「それって、エクセルのマクロでできますよね」と言うと、会計士の方々は困った顔をしていました。
マクロについては知っていても、マクロをつくる手間が大変で、手がまわらないようです。マクロを販売している会社もありますし、マクロづくりを外注することもできますが、値段がかなりします。手間やコストがかかりすぎるという理由で、マクロを使っていないのです。
この部分は、はたしてAIで代替できるか否かという話の論点といえるのか、当時、私は疑問でした。しかし、むしろこれこそ、AIの社会実装における特別重要な論点だと、あとから気づいたのです。
特殊なことをするために特別なプログラムをつくると、多額のコストがかかります。いろいろなことができる汎用性のあるプログラムであれば、購入する人も多くなり、コストを抑えることができます。
つまり、「汎用性」が一つのキーワードです。
時給200円で軽作業ができるロボットの可能性
「バクスター」という180万円くらいのロボットがあります。普通の産業用ロボットと違って、作業スピードは遅いし、精度もそれほどよくありません。
ところが、「バクスターが産業界を変えるかもしれない」と話題になりました。なぜ、産業界を変えるほどの影響があるかというと、汎用性が高いからです。
バクスターは、動き方を一つひとつ手作業で教えると、それを覚えて、できるようになります。誰でもロボットの動きをつくることができるのです。
最初に動き方を教えてやると、自分がしてほしい作業をやらせることができます。大した作業はできませんが、簡単な作業なら、だいたいどんなことでもできるようになります。
耐用年数3年、1日の作業時間を8時間として計算すると、バクスターのような約180万円のロボットは時給200円くらいになります。時給200円でいろいろな軽作業ができるのであれば、産業界を変えるポテンシャルがあると期待されたのです。
「汎用性」というのは、普及のための大きな要素です。