(撮影:小澤健祐)
子供の頃からの夢「ドラえもんをつくる」ために、神経科学や認知科学を武器に本気で最新のAI開発に取り組む、新進気鋭の研究者である大澤正彦氏。
単なるロボットとしてではなく、人とのかかわりや人間がもつ感情や心に注目し、「人間」を徹底的に研究し、最新のAIやHAIをもとに、各分野のエキスパートや仲間の力を借りて、「ミニドラ」づくりに取り組んでいる。
本稿では、そんな大澤氏の著書『ドラえもんを本気でつくる』より、ミニドラ完成に欠かせないAIに対する誤解や、実務者と技術者の相互不理解を解消するための方法に言及した一節を紹介する。
※本稿は大澤正彦著『ドラえもんを本気でつくる』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。
知らないのに「AIに仕事を奪われる」と危惧する人々
AIに奪われる代表的な職業として、よく会計士があげられます。ほんとうに会計士の仕事はなくなるのでしょうか。
一度、公認会計士の方々とのカンファレンスを主催したことがあります。公認会計士が約半数、AI研究者が約半数で、「会計士の仕事はAIに奪われるのか」というディスカッションを行いました。
最初は、まったく話が嚙み合いませんでした。会計士の方々は、「会計士の仕事はなくなりません」という話をずっとされていました。一方、AI研究者たちは、「会計士の仕事はなくなります」という話をずっとしていました。
なぜ、話が嚙み合わなかったのか。その答えは、恥ずかしながら、お互いが自分たちのことしか知らずに話を進めていたからです。
会計士の方々は、AIと呼ばれている技術でいま、何ができるのかわからずに、「自分たちの仕事はなくならない」と主張していました。
一方、AI研究者たちも、会計士が実際にどのような仕事をしているのかをほとんど知らずに、「仕事がなくなる」と主張していたのです。
そこで、話を嚙み合わせるために、実際に会計士の仕事を一つひとつうかがい、それぞれについて、「これはAIでできる」「これはAIではできない」と振り分けていきました。
すると、AI研究者が知らなかったような、人と人との関係性が重要な仕事がたくさんあり、会計士の「作業」は代替できても、会計士”自体”をAIが代替することがいかに難しいかがわかってきました。
会計士が事務的にやっている作業は、将来的にはAIに代替されるだろうけれども、それはむしろいいことであって、浮いた時間をほかの仕事に充てることができます。
会計士の方々は、クライアントの相談相手としての役割を非常に大切にされているそうです。機械ではなく、人間に相談したいという人はたくさんいます。「相談に乗ってくれる信頼できる人」というポジションは、当面のあいだ、会計士にしかできないだろうという結論になりました。
「AIに仕事が奪われる」と恐れるのではなく、むしろAIの技術を積極的に使ったほうがメリットは大きいはずです。AIがたくさんの案件を処理してくれれば、空いた時間でクライアント一人ひとりと向き合うことができます。
こうして、「事務作業のウエートが減って、人と向き合い、人を助けることのウエートが増えていくのが理想的なシナリオではないか」という前向きな話でまとまりました。