野村克也氏の考える最強捕手「甲斐拓也もすごいが、やっぱり…」
2020年03月12日 公開 2021年08月13日 更新
野村と森...両名捕手とバッテリーを組み、的確な分析を見せた山内新一
投手が投げなければ試合は始まらないが、その前に捕手がサインを出さなければ投手は投げられない。言わば、捕手は「監督の分身」であり、「試合中の監督」なのである。
セ・リーグで実に8年連続(61~68年)ベストナイン捕手に選ばれたのが、私より1歳下の森昌彦(巨人=現・祇晶)。
南海と巨人が日本シリーズで対決した年(61年・65年・66年・73年)を除き、パ・リーグ打者の情報を仕入れるため、日本シリーズ前、巨人・川上哲治監督の命令で私のところによく派遣されてきた。
「捕手の評価が低いよな。チームという扇の要の捕手の大切さを、2人で知らしめようや」
それから、ゆっくりとだが、着実に捕手の重要さは認知されていく。
73年、私はプレイング・マネージャー初優勝の美酒に酔った。巨人からトレード移籍の2人・山内新一が0勝からいきなり20勝、松原(福士)明夫(敬章)も0勝から7勝。東映から移籍の江本孟紀が0勝から72年16勝、73年12勝。
山内は、スポーツ記者から質問の嵐、カメラマンからストロボの光を浴びせられる。
「セ・リーグの名捕手・森捕手(巨人)のリードと、野村捕手(南海)のリードの相違点は?」
その前に、まず私に言わせれば、性格が全然違う。家が経済的に恵まれなくて、大学進学を断念したのは共通項だが、私は浪費家、森は節約家になった。だが、リードは違う。「やりくり」リードは私のほう。
図らずも、山内が、私たち2人を比較、なかなか的を射た分析だと思った。
「森さんは一流投手をリードするのが上手い、野村さんは僕らみたいな二流投手をリードするのが上手い」
ときは流れ、名捕手は名監督となり激闘を繰り広げた
森は巨人で藤田元司、堀本律雄、堀内恒夫、高橋一三ら、最多勝タイトル投手とバッテリーを組んだ。
そして現役時代は川上監督の分身として11回(巨人)、コーチ時代は広岡達朗監督の懐刀(ふところがたな)として3回(ヤクルト1、西武2)、監督時代は6回(西武)と、日本シリーズ無敗。
時は流れ92年と93年の日本シリーズ、監督として相まみえたときは感慨深いものがあった。
お互いの愛弟子(ヤクルト・古田敦也、西武・伊東勤)が名捕手になっており、野村と森の「分身対決」「代理戦争」とまで喧伝された頭脳戦の日本シリーズとなった。
92年は3勝4敗で後塵を拝したが、93年4勝3敗で雪辱。野村ヤクルトは、森の日本シリーズ連勝を20回でストップさせた。