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SAKEを世界に! カリスマ利酒師が仕掛ける日本酒の世界戦略

八木・ボン・秀峰(名誉利酒師、米国TICレストラングループ社長)

2020年04月17日 公開 2022年07月11日 更新

日本から蔵元を募る

私はリビングストンマナーに土地と建物は所有していますが、SAKEを造る技術はありません。そこで日本から、アメリカ進出を希望する蔵元を募ることにしました。1社ではなく5社ぐらいで、2カ月間ずつ交代で設備をシェアするシステムです。アメリカは3カ月間、観光ビザで滞在できますから、こうしたローテーションが理想的だと考えたわけです。運営費は5社で分担するので、1社で背負うより経費負担は少なくなるメリットがあります。

手を挙げてほしい蔵元は、30代前後の若い世代です。志ある蔵元に子弟を育成するために派遣してもらうことも考えられます。つまり日本酒を次世代に繋げるためのプロジェクトにしたいと構想しています。

ここではそれぞれの手法で生酒を造ってもらうことを条件に、実験的にNYで自分たちの吟醸酒などに挑戦していただくこともできます。また、こちらで使われたバーボンやワインの樽に寝かせて、新たな商品開発をしてもらうことも自由です。逆にビールを造ることも可能ですし、ジンやウォッカを仕込んで、日本に持ち帰ってもらうこともできます。

杜氏や職人と一緒にアメリカに出張して、挑戦の場として、海外での拠点として、使って

もらえればと思うわけです。出張中の宿泊施設も用意する計画です。

また当方にはNY生れの長男・長女が事業継承者としていますから、一緒に未来を開いてほしいと希望しています。SSI認定の唎酒師の資格を取得していますし、英語と日本語でSAKEのプレゼンテーションもできます。若いジェネレーションが主導でニューヨーカーを対象に、新しい商品の試飲会を開けたらと夢はふくらみます。

酒米はカリフォルニア州で獲れる「カルローズ」、アーカンソー州で栽培されている「山田錦」があります。カルローズ米は、カリフォルニアで一般的な食用米ですが、ルーツをたどれば祖先は日系移民が持ち込んだ酒米「渡船」。酒造適性を秘めている米と言えます。

仕込み水はキャッツキル山からの伏流水でph6.7の軟水、全米一綺麗な水と言われています。麹菌はアメリカにも持っているところがあります。そして精米は、精米会社が日本から進出していて対応しています。
 

ファクトリーツアーとオーベルジュを計画

敷地内に建物は大小いくつかあって、合わせると5万6000スクエアフィート(約1600坪)になります。その中の1棟をオーベルジュにして、造りたてのSAKEと料理を楽しめる日本風の宿泊施設にしたいと考えています。古民家を改造して、古さを生かしながら快適に過ごせる空間にできれば最高です。日本旅行をする前の体験施設として、日本旅行の後に思い出を偲ぶ縁として、または我が社のモットーでもある「飛行機代を使わずに日本を楽しめる場」として、使ってもらえることを目指したいと計画しています。

醸造所はファクトリーツアーで見学できるようにします。醸造工程を見ることで、発酵の神秘に触れてもらい、SAKEへの興味を高めてもらいたいからです。キャッツキルは水がいいので、ウイスキー工場や生ビールの工場、ウォーターボトリングの工場などがいくつもあり、つい最近もレストラン併設のビール工場ができて大盛況です。キャッツキルを訪れる人たちに、こうした工場巡りの一環に醸造所を組み入れてもらえると考えます。

そのほか敷地内には日本庭園を配し、酒粕を利用したスイーツのカフェやSAKEとその加工品のお土産ショップも造り、テーマパークのような楽しさも添えたいと青写真を描いています。

リビングストンマナーの周囲にはスパやカジノもありますし、1969年の夏に野外コンサート「ウッドストック・フェスティバル」の会場となったベセルウッズもあり、アーツセンターでは当時のフィルムが上映されています。また、少し離れていますが、ウッドストックの町は文化人に愛されたことで知られ、ミュージシャンではジミー・ヘンドリックスやボブ・ディランが住んでいました。ですから醸造所の開設は、ニューヨーカーが休みの日を過ごす場所に、もうひとつ観光スポットを加えることになります。

リビングストンマナーの住人はこぞってここの水がSAKEの醸造に使われることに賛同し、NY州からのインダストリアルサポートの活用も可能です。設備投資や不動産に関するタックス・インセンティブ、農業や醸造業への助成金制度、低金利情報を提供するファイナンス、求人と教育の支援、キャンペーンや宣伝を支援するマーケティングなどの制度を利用することができます。

販路はニューヨーク州周辺とアフリカに開きたいと計画しています。これから日本酒の市場はアフリカで伸びると思っているからです。2億5000万人が暮らす東アフリカの巨大市場をターゲットに、日本の中小企業が多数進出していて、ウガンダの首都カンパラには日本食のレストランが次々に開業しています。またコーヒー豆と石油の産出で富裕層も多く、日本からの吟醸酒など高級酒も受け入れられる土壌だと思います。

そして西アフリカはアフリカ系アメリカ人のふる里でもあります。NYから発信するSAKE情報は関心を集めると思われます。生酒は日本からよりNYから輸送する方が時間的にもコスト的にも有利だと考えます。従ってキャッツキルで造る生酒を西アフリカで販売できたらと考えています。

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