テレワーク時こそ気を付けたい「長時間労働」の問題
このような事情を受け、厚生労働省の「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」には、テレワーク時には「長時間労働を防止する対策を図ることが使用者には求められる」という旨の記載があります。
対策としては、以下の内容が挙げられています。
(1)メール送付の抑制(役職者等から時間外、休日深夜におけるメール送付の自粛)
(2)システムへのアクセス制限
(3)テレワークを行う際の時間外、休日、深夜労働の原則禁止等
(1)については、メールに限らず、昨今多くの企業で導入されているチャットツールも同様です。こうしたチャットツールはメールに比べても気軽に送付ができることもあり、つい時間外や休日に送付してしまうということもあるかと思います。
判例上、労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に判断できる時間」とされています(最判平成12年3月9日・民集54巻3号801頁)。つまり、終業時間後であったとしても、チャットツールの返信を行う時間は労働時間とみなされる可能性があります。
裁量労働制が導入されている企業だと、それぞれの従業員が稼働する時間に幅があります。ある社員は9時から18時に労働して、別の社員は12時から21時に稼働しているといった場合、それぞれがそれぞれの稼働時間に自由にチャットツール等で業務連絡を行っていると、「今も自分宛てに連絡が来ているのでは」と気になり終業時間後もPCやスマートフォンで確認してしまうということは少なくないと考えられます。
こうした場合の対応ですが、全社的に、終業時間後のチャットツールへのログインや返信は不要と最初からアナウンスしている企業も多くあります。
実際に裁判になった場合には、その業務連絡の内容や頻度等の実態を総合的に判断して労働時間かそうでないかが判断されることになりますが、終業時間後は「返信は休日や労働時間以外には不要」とあらかじめ周知しておけば、業務連絡があったからといってそれが直ちに労働時間とみなされるリスクは少ないといえます。
(2)はそもそも業務関連のシステムには所定の時間以外にはアクセスができないような設定とするという方法です。強制的に業務ができないようにし、過重労働を防止するということです。
(3)のテレワークを行う際の時間外、休日、深夜労働の原則禁止等については、週1~2回といった実施であれば、テレワークを行う日は残業しないというルールとすることも可能かもしれません。
一方、テレワークが週のほとんどを占める社員の場合には難しい可能性もあります。ただ少なくとも、テレワーク勤務時で時間外労働をする際には事前に許可を取ったうえで行うことが必要だと考えています。
会社側の都合としても、テレワークだと仕事をしているのか他のことをしているのかというのが見えにくくなるのは事実です。
テレワークで許可なく時間外労働をされた場合に、会社としては割増賃金のコストがかかることもあり、気になるというお話をよく伺います。こうした意味でも、(3)の時間外労働の許可制というのは、テレワークの場合には導入することをお勧めします。