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仕事

「他人の真似ばかりする人」が、仕事で結果を残してしまう理由

佐々木常夫(元東レ経営研究所社長)

2020年09月19日 公開 2022年04月25日 更新

仕事と家族の世話との両立を図るために「最短距離」で「最大の成果」を生み出す仕事術を極め、多くのビジネスリーダーから支持される佐々木常夫氏。

そんな佐々木氏には自身の生き方働き方を教えてくれた言葉があるという。仕事やコミュニケーションの方法、家族との接し方など、あらゆる面で大きく変わろうとしている現在において、それでも変わらない働くうえでならびに生きるうえで大切なこととは。

※本記事は、佐々木常夫著『ビジネスマンの教養』(ポプラ社)より、一部を抜粋編集したものです。

 

オリジナルはゼロからは生まれない

「独創力とは思慮深い模倣以外の何ものでもない。」

これはフランスの思想家であるヴォルテールの言葉です。

独自の発想で、まだ世の中に存在していない新しいものをつくり出す能力、これを「独創力」といいます。

しかし、どんなに新しい発明や発見も、まったくのゼロから生み出されるものではありません。すでに世にある製品や、既存の理論、現象の影響を受けて生まれてくるのです。

このことは、独創性が重視される芸術の世界も同じです。

写真の影響を受けて印象派の作品が誕生したように、既存の作品からヒントを得たり、既存の作品に手を加えたりして、新しいものがつくり出されます。だから、ヴォルテールが言うように、独創は思慮深い模倣から生まれるのです。

模倣から独創を生んでいくことが大事なのは、芸術や学問といった特別な世界だけではありません。会社の仕事、たとえば、営業や総務といったことでも同じです。

 

プアなイノベーンョンより優れたイミテーション

私が会社員時代、新しい課に転属したときにまず取り組んだのも、先人たちの「模倣」でした。30代半ば、東レの繊維企画管理部に異動になったとき、書庫の書類整理をしたのです。

その書庫には、これまでの経営会議や常務会の資料、さまざまなプロジェクトのレポートが所狭しと収められていました。私は作業着に着替え、朝から夕方まで毎日片っ端から資料を読み、不要と判断したものは捨て、残すべき資料はカテゴリー別に仕分けをしていきました。そして、すべてのリストを作成しました。

この作業はたいへん興味深いものでした。なぜなら、長い間の先輩たちの労作、いわば歴史的仕事の棚卸しだったからです。1カ月かけてようやく整理が終わりました。それまで仕事もせずに書庫に入り込んだままの私を不思議そうに見ていた上司は、待ってましたとばかりに次々と仕事を与えてきました。ここでリストの作成が活きてきます。

会社の仕事の大半は、同じことの繰り返しだからです。

私が上司から与えられる仕事のほとんどは、過去に先輩たちが分析したもので、その優れたレポートは書庫に保管されています。ですから、上司から「○○についての分析をしてくれ」と指示されても、リストから似たようなテーマのファイルを見つけ、その考え方や手法を借用すればいいわけです。

それを最新のデータに置き換えて自分の知恵を付け加えます。すると自分でゼロから調べたり考えたりする半分以下の時間で、質の高い仕事ができます。

私はこのことを「プアなイノベーンョンより優れたイミテーション」と言っています。若いときは優秀だった人間が、必ずしもその後、成長し、成功するわけではないのです。

新入社員が100人いたら、そのうちの数人は「これはとんでもなく頭がいい」という人がいるものです。ところが10年後、20年後の姿を見ると、いいモノはもっているはずなのに、それを十分に活かしきれていない人が多いのです。むしろ、目立たなくてもコツコツまじめに仕事をしてきた人のほうが、30代や40代になったときに良い仕事をしています。

これはおそらく頭がいい人は、自分の才能に恃たのみすぎるからでしょう。「人のマネなんかしたくない。自分は能力があるんだから自分の力でやっていくんだ」と考えて、先人から学ぶことをおろそかにします。

だから誰にも頼らずに自力でやり遂げた仕事かもしれませんが、「プアなイノベーション」のレベルを超えることはないわけです。

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コピペではない「思慮深い模倣」をせよ

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