日々の生活や仕事でネガティブ感情がわいてくることは、人間として自然なこと。問題はその感情をうまくコントロールできるかどうかであり、うまくつきあえばネガティブ感情も役に立つ面がある。
そう語るのは、教育工学や教育心理学の専門家であり「“教えること”を教えるプロフェッショナル」として多数の著作を上梓している早稲田大学人間科学学術院教授の向後千春氏。
本稿では、同氏の著作『世界一わかりやすい 教える技術』より、ネガティブ感情をコントロールするための練習法について書かれた一節を紹介する。
※本稿は向後千春著『世界一わかりやすい 教える技術』(技術評論社刊)より一部抜粋・編集したものです。
ネガティブ感情は変じゃない
人間は感情の生き物です。私たちは感情を持っているので「生きている」という感じを持つことができます。楽しい感情やワクワクする感情などのポジティブな感情は、私たちに幸せを感じさせてくれます。
その一方で、いつでもイライラしている人もいますし、ときどき怒りで爆発する人もいます。怒りや悲しみといったネガティブな感情とどのようにつきあっていくかは、日々の生活や仕事をする上で重要なスキルと言えます。
どんな人でも、ついイライラしたり、たまに怒ってしまったりすることがあると思います。それは自然なことです。しかし、怒りを爆発させてしまうと、それがきっかけで人間関係は簡単に壊れてしまうことにもなります。
また普段からあまりにも怒りっぽい人は、周りの人たちから遠ざけられてしまうでしょう。ポジティブ感情と同様にネガティブ感情がわいてくることは、人間として自然なことです。
ただし、ネガティブ感情に支配されてしまうと、さまざまな問題が起こります。怒りの爆発は人間関係を壊しますし、悲しみを引きずっていると元気が出てきません。
そこで、自分の感情とうまくつきあっていくスキルが必要になってきます。感情がわいてくるのは自然なことですが、その感情に自分が支配されるのではなく、感情をうまくコントロールするスキルが必要なのです。
ネガティブは「役に立つ」
怒りやイライラなどのネガティブ感情は、それを引きずるとさまざまな問題を引き起こす可能性があります。そうならないために、怒りをコントロールする方法も考えられています。
それは、アンガーマネジメントと呼ばれる手法です。このような手法が考えだされているということは、逆に言えば、怒りをコントロールすることが難しいということの表れなのでしょう。
さて、このようにコントロールしにくいネガティブ感情は役に立たなくて意味のないものなのでしょうか。もしそうだとすると、人類が長い間それを持ち続けている理由が立ちません。
じつは、ネガティブ感情は役に立ちます。それは「そこに問題がある」ということを私たちに知らせてくれるものなのです。そこに問題があるということに気がつけば、私たちはそれを解決しようとして、注意力をそこに集中することができます。
つまり、怒りやイライラといった感情は、そこに問題があるので解決したほうがいいですよということを私たちに教えてくれているのです。私たちは常に「このようになったらいいな」「ぜひこうなってほしい」という期待やイメージを持っています。
しかし、いつでもそうなるとは限りません。むしろ自分の期待を裏切るような事態になってしまうことのほうが多いかもしれません。自分の期待を裏切るようなことが起こると、ネガティブな感情が湧いてきます。それは怒りだったり、悲しみだったり、イライラだったりします。
ネガティブ感情は「今まさに自分の期待を裏切る事態が起きている」ということを自分自身に知らせてくれているのです。つまり、危険信号を送って、なんとかしなくてはいけないということを知らせているのです。これがネガティブ感情の役割です。