意見や提案がないのは「この組織を信頼していない」メッセージ?
ここでは、(6)の「無力感」にフォーカスします。これは、(7)(8)(9)も包含あるいは関連しています。それだけ闇深く、いつか解決しないと組織そのものの求心力、すなわちそこで働く人たちのエンゲージメント(組織に対する帰属意識、仕事に対する愛着や誇りなどの強さ)に影響します。
ひとことでいうならば、意見や提案がおこなわれない状態とは、社員やメンバーの「この組織を信頼していません」のメッセージである可能性が高いのです。
そこに向き合わずして、「心理的安全性」(最近、流行り言葉のように各所でもてはやされていますが……)などと騒いで、トップと現場、あるいは上司と部下の「1on1ミーティング」(これまた、流行りのように増殖していますが……)を重ねたところで、それこそ虚しい「仕事ごっこ」に終わってしまいます。
無力感。この根深い問題に正しく向き合いましょう。
「奇特な勇者のボランティア活動」状態
それでも、物怖じせず(あるいは、いい意味で空気を読まずに)組織の問題・課題を指摘し、改善を提案する人はいます。それは、どんな人か?
ズバリ、奇特な勇者です。上司の目や、抵抗勢力を物ともせず、自身の正義感からのあふれる改善マインドでもって、意を決して改善提案をする。
しかし、そのような勇者は、待てど暮らせどなかなか現れない。無力感が支配している職場なら、なおのこと。そして、王様や大臣(社長や経営陣、あるいは部課長)は今日も嘆く。
「どこかに勇者はおらんものかのぅ……」
稀に、奇特な勇者が現れます。
「社長、ウチの会社はここがおかしいと思います!」
「部長、この仕事のやり方は現場のモチベーションを下げます。やめましょう!」
勇気をもって提言する。ところが次の瞬間……
「ふざけるな! お前に何がわかる!」
こうして、あからさまに否定される。あるいは、陰湿な人事対応により島流しにされる。
なんたるデストピア!
その結果、どうなるか?
「ああ勇者、やってもうた……かわいそうに」
次の勇者が二度と生まれない組織風土、できあがり!(大手金融機関などにありがちな光景です)
あるいは……
・上長が提案や本音を聞くポーズは見せるが、やらせてもらえない
・「言ったお前がやれ」と、改善をすべて本人に押しつけられる
・挙句の果てに、ハシゴをはずされる
なんていうか、改善が「奇特な勇者のボランティア活動」状態なのです。
そもそも改善がうまくいった試しがない
問題や課題はわかっている。しかしながら、改善する能力がない。先日、私が訪問したある大手製造業の開発部門でのお話。そこの主任はこう嘆いていました。
「問題はみんなわかっているんです。でも、どうしようもない。考えてみれば、ウチの部署では、いままで改善などしたことがないんです。目先の仕事に追われるばかり。改善なんて考えたこともなければ、ましてやお金や時間をかけてスキルの育成もしてこなかった」
このような職場では、改善体験そのものが生まれません。当然、改善がうまくいった成功体験もない。それが、ますます無力感の曇り空を厚くします。
あるいは、改善行動そのものは起こる。しかしながら、
・部門長が変わった瞬間に、「そんな余計なことはしなくていい」と言われて終わる
・抵抗勢力または無関心勢力が邪魔をする
・いつも途中でやめてしまうか、自然消滅してしまう
すなわち、続かない! これまた、無力感を助長する要因に。