ストレスの原因となるのは「自律神経」の乱れである。順天堂大学教授で、自律神経研究の第一人者である小林弘幸氏は、加齢とともに自律神経の働きが衰え、ストレスによる「睡眠不調」に陥りやすいと語る。
人生の後半をより良いものにするために、すぐに始められる「健康貯金」について話をうかがった。
本稿は、『THE21』2021年1月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。
年齢を重ねるほど「ストレス」が睡眠に影響をもたらす
若いうちは、自律神経の働きが活発です。学校で嫌なことがあったり、親に怒られて交感神経が高ぶっていても、夜になると自動的に副交感神経が優位になる「熟睡スイッチ」が入り、ぐっすり眠れます。
しかし、年齢を重ねると、自律神経の働きが衰え、特に副交感神経への切り替えが悪くなります。日中に仕事で感じたストレスや緊張をそのまま引きずり、夜になっても副交感神経への切り替えがスムーズにできません。その結果、眠れない、眠りが浅いなど睡眠の不調が生じます。
このように、年齢と共に自律神経の働きが低下するので、それと共に睡眠の質が落ちる傾向にあります。さらに仕事の責任やプレッシャー、家族や将来の悩みも加わり、眠れない要因が増えていきます。
私自身もそうでした。外科医だった30代後半、オペの緊張や人間関係のストレスに加齢が重なり、寝ても疲れが取れない、気力が湧いてこない、うつ寸前の状態になっていたのです。
それから神経の働きに興味を持つようになり、自律神経の研究をはじめ、自分自身の生活でも自律神経を整える「熟睡ルーティン」を実践するようになったのです。その結果、60歳になった今も、5時間睡眠でスッキリ目覚め、疲れ知らずで1日フル活動できています。
「朝1杯の水」が熟睡できる身体を作る
私の「熟睡ルーティン」のカギとなるのは「呼吸と腸内環境」。腸内環境が睡眠に関係があると言うと、多くの人は驚かれます。しかし、私が担当する外来では、腸内環境を改善した結果、不眠やうつまで劇的に良くなったという症例が数多くあるのです。
なぜ、腸内環境で睡眠や精神状態まで改善されるのでしょう。それは、眠りを誘う熟睡ホルモン「メラトニン」の材料が腸壁で作られているからです。
メラトニンの材料となるのは、幸福感を高めて前向きな気持ちにするセロトニンなどの神経伝達物質です。実は95%が腸壁で作られており、脳内からの分泌量は数%に過ぎません。
うつ病の人はそうでない人に比べて、セロトニンの分泌量が少ないことがわかっています。セロトニンの主要製造元である腸内を改善することが、熟睡ホルモン「メラトニン」の増加にもつながり、うつや不眠に効果をもたらしていたのです。
腸内環境を改善する熟睡ルーティンは「朝起きたら、コップ1杯の水をゴクゴク飲む」ことです。すると、胃に入った水が〝おもり〟となって腸を押す「胃結腸反射」が起こり、胃腸のぜんどう運動が始まって便意が促されます。
胃腸は副交感神経の支配下にあるので、朝1杯の水は副交感神経の下がりすぎを防ぎ、自律神経のバランスを整えることができます。日中もイライラしたり、緊張したときは、水をひと口飲むといいでしょう。すると、副交感神経が優位になって、気持ちが落ち着いてきます。
食事面では、食物繊維を含む食べ物や発酵食品がお勧めです。1日3食、腹六〜七分目をとると、胃腸を刺激して、自律神経が整います。中でも1日のスタートとなる朝食は最重要。時間がないという人は、バナナ1本でも十分です。
また、夕食は寝る3時間前に済ませておくこと。どうしても食事が遅くなるときは、軽食に留めましょう。そうすることで寝るまでの間に胃腸がしっかり食べ物を消化してくれて、寝つきが良くなります。