新型コロナウイルス感染症拡大の影響は飲食・小売・観光業界に留まらない。2020年2月以降に日本でも感染症の拡大が始まってから一年ほど経過し、ようやく各業界の動乱と変動ぶりがデータとなって露わになってきた。リモートワークの普及による都心離れ、地方・郊外回帰がマスコミを中心に叫ばれるなか、実際に不動産市場はどう変わったのか。
本記事では、中古ワンルーム不動産販売業を営み、自身も多数の投資用不動産を所有する天田浩平氏にコロナ禍以前・以降の不動産業界における動静を取材した。〈取材・文:遠山怜〉
一時的に賃貸需要が減った「港区」
まず、コロナ禍を経て東京の人気エリアに変動はあったのだろうか。単身世帯向け物件に限って言えば、実は以前と人気のエリアはさほど変わらないのが実情だ。ただし、退去者者数が増えた影響で、平均家賃が約5〜10%ほど下がった場所がある。それが港区等の一等地だ。
特に、ひと月あたり十数万円の賃料が発生するランクの物件は、需要に若干の陰りが見られた。数年前は八畳一間で家賃14、15万円で貸し出してもすぐに満室になっていたような物件が、2020年4月以降は空室が一部見られるようになったのだ。
利便性の面から勤務地近くに住んでいた飲食店勤務者や、港区ブランドを好む水商売の方が一時的に退去したことが原因と見られている。
ただし、もともと超都心と呼ばれる同地区は人気エリアのため、退去者が出るたびに賃料が上がっていく"港区バブル"のような状態が続いていたこともあり、賃料下落といっても今までの高騰化に若干の歯止めがかかり、通常の賃料相場に近づいた状態にあると言えるだろう。
ちなみに、超都心の家賃50万〜100万円を超えるような超高級物件に関しては、空室率・家賃相場に変動はほとんど見られなかった。いわば富裕層クラスに関しては、都心からの移動が観測されなかった。
郊外人気が囁かれるが…
また、準都心と言われるような、都内23区内でありながら主要駅からやや離れているエリアである板橋区、豊島区、墨田区などは、リモートワークによる郊外回帰の流れに乗り、一部ではこれから人気が出るとされているものの、実際には家賃相場も物件販売数も変化が見られなかった。
加えて、かつて1960年代から地方公共団体・都市再生機構や鉄道会社との協同で開発されてきた23区外のニュータウン地域(八王子・市川・多摩・町田市など)も、家賃相場や物件販売数は微動だにしなかった。
2000年代から住民の高齢化とゴーストタウン化が囁かれてきたニュータウンだったが、コロナ危機下でも活気は未だ戻る兆しがない。