それでも上昇し続ける「東京23区」
都心のごく一部では家賃相場の下落が見られたが、それでも東京23区の中古物件の取引価格は前年比で7〜8%上昇しているという驚きの数字が、不動産売買に関するデータを取り扱う東京カンテイより発表された。
コロナ禍で経済の先行きが見えないなか、不動産への投資熱は相変わらず衰えていないのが現実だ。理由としては、株や債券に比べて安定的に家賃収入が見込める投資先としての手堅さから、投資マネーがこちらにも流入しているものと考えられる。
事実、緊急事態宣言下では物件販売数こそ昨年の約半数まで落ち込んだものの、問い合わせの勢いは衰えず、WEBセミナーの集客は以前より増えたという声が多く聞かれた。ステイホーム期間中に不動産投資について学び、効率よく時間を使っていた投資家の姿が見えてくる。
不動産は株と比べて資金力が要ると一般的には思い込まれているが、頭金10万円プラス購入時に掛かる諸経費(不動産登記費用・各種保険料・不動産取得税などで約60万円程度)だけで済むこともあり、安定した職についているなどの信用力や事前調査、キャッシュフローの精査などは必須ではあるが、投資を始める際の金銭的なハードルはさほど高くない。
緊急事態宣言下こそ金融機関の突然の操業停止により、融資が降りない事態に見舞われたが、宣言が開けた5月以降は融資も再開され、借入時の頭金や金利条件も以前と変わらなかった。
買い支えてくれる個人投資家が多数いる限り、不動産業者にとって物件の仕入れ値は上昇する。需要と供給のバランスから成り立つ、シンプルな関係である。
2020年秋口以降は単身世帯向け不動産の売買数も徐々に戻り始め、2021年3月度は投資用マンションを専門に融資している大手金融機関が、過去最高の融資実行件数を記録している。中古ワンルーム販売に限定すれば、不動産業界全体の売り上げも上がってきているのである。
また、コロナ禍特有の現象というと、ごく一部には株価の急騰により巨額のマネーを得た個人投資家が、すでに所有している不動産を繰り上げ返済できたため、別の不動産を買い入れる動きも見られた。
すでに投資に踏み切っている人がこうした騒動を経て、さらに投資資金を得ている構造も見えてくる。
福岡・大阪は人口微増…しかし地方回帰は起きず
さてその一方、地方に移住する人はこの1年の間で増えたのだろうか。総務省統計局発表のデータを見てみると、2020年1月〜12月の間、東京都では約3万人の転入超過が観測され、国内で最も多い転入超過数となった。
転入超過とはその土地にやってきた転入者数から、その土地から離れた転出者数を引いた数値を表す。つまり、その都市の移住者の純増数である。
2019年は東京都は8万人の転入超過だった事実からしてみると、東京都民の純増数は一昨年と比べれば減少していると言えるが、それでも日本で最も人口が増えているのは東京であるという事実には変わりない。
東京からの転出者は昨年より1.7万人ほど増え、若干は人口移動が見られるものの、総合的には圧倒的な東京一強の流れは、コロナ騒動が最も大きかった2020年ですら変わらなかった。
その他、千葉・神奈川・埼玉といった東京周辺の地域は1〜2万人程度、地方では大阪・福岡において数千人程度の転入超過傾向が見られた。しかし、この数値を安易に東京から地方に人が戻ってきて人口が増えたと考えることは誤りである。
実は千葉・神奈川・埼玉・大阪・福岡ともに一昨年と比べて転出者数が減っているのである。これは、本来ならば就学・就労のために東京に越してくるはずだった人たちが、一時的に周辺地域・地方に留まっていることを意味していると想定される。
その証拠に、上記に挙げた県の全てに置いて、転入者自体は増えておらず、むしろ若干減り続けているのが実態だ。
特に、地方でしばしばコロナ感染者に対する差別、県外移動の制限をかける報道がなされるように、地方は都心よりもコロナウイルスへの警戒心が高い。このため、騒動が収まるまでは地元で待機している人たちがいると考えられる。
長らく東京一強が問題視され、地方移住を進めるために国も補助金事業に乗り出すなど、様々な対策が取られてきたが、このコロナ禍の最も激しかった1年でも地方への転入は起きていないという非常に厳しい現実がある。