東京から「脱出」する30代が急増…彼らはどこに引っ越したのか?
2020年10月01日 公開 2022年07月04日 更新
2020年4~6月期のGDPがマイナス7.9%となり、年率換算で28.1%の大幅減少となるなど、日本経済はコロナショックの大打撃を受けている。不動産業界への影響も深刻でビジネスホテルやオフィスビルの需要が激減してしまった。
人口減少対策総合研究所理事長で、このほど『未来を見る力』(PHP新書)を上梓した河合雅司氏と、元三井不動産勤務で、現在はホテルや不動産のアドバイザリーなどで活躍する牧野知弘氏が、人口減少+コロナ禍のダブルパンチに見舞われる不動産の未来を展望した。
東京のビジネスホテルは、1万室、不要になる
(左)河合雅司氏、(右)牧野知弘氏
(牧野)コロナショックの直撃に見舞われた不動産関係の事業といえば、まずビジネスホテルですね。ビジネスマンの出張が激減し、ビジネスホテルの需要はかなり消えてしまいました。
そして今後も、社内関係の出張はあまり行われなくなるのではないでしょうか。たとえば支店長会議はズームで十分だということになれば、時間や交通費を節約するためにオンライン会議に移行することになる。こうしたことを考えれば、ビジネスホテルの需要は簡単には回復しないと思います。
(河合)もともと今年は、ホテルの数が大きく増える予定だったんですよね。
(牧野)東京都だと、台東区。首都圏以外では、大阪ミナミ、京都。このあたりが、ホテルが増えていく予定だった地域ですね。
(河合)牧野さんの見立てだと、東京のビジネスホテルの需要はどのくらい減ってしまうと思われますか。
(牧野)現在東京都にはビジネスホテルが約14万室ありますが、1万室分くらいは減ってしまうのではないでしょうか。
(河合)私は、コロナ禍は単に需要の消失といった経済動向のレベルの話ではなく、社会構造や人々の価値観を根底から変えたと捉えています。ビジネスホテルの需要はコロナ前の水準には戻らないでしょうね。
(牧野)ビジネス分野に関していえば、回復するのは減少分の半分くらいに留まるのではないでしょうか。働き方がすっかり変わってしまいましたからね。
(河合)半分となると、ビジネスモデルとしては厳しくなりますね。
(牧野)ええ。ですからビジネスホテルは完全にマーケティングを変えていかなければなりませんね。
ビジネスホテルより安価な簡易宿泊所や民泊は、一度すべて淘汰されるでしょう。こうした施設には資金力がありませんから。しかし、一度淘汰された後、インバウンド需要が戻ってくるとまた復活してくるのではないか。そうすると、ビジネスホテルはこうした施設にも顧客をとられてしまうでしょう。
大打撃を受けたオフィスビルのマーケット
(牧野)でも、私がもっとも心配しているのはオフィスビルなんです。
(河合)同感です。オフィス街そのものが変わっていくでしょうね。
(牧野)コロナショックにより、働き方が大きく変わってしまいました。今まで会社に出勤して行っていた作業や会議が、在宅勤務とズームでできてしまうことに、みんな気づいてしまった。われわれは国全体で、壮大な社会実験を行ってしまったんですよ。
これまでのテレワークは、子育てや介護で忙しい方などに限定されていた、補完的な位置づけのものでした。しかし、今回は社長から一般社員まで、全員がテレワークを余儀なくされました。
(河合)テレワークを導入した企業の中には、政府の緊急事態宣言が解除された後に元の働き方に戻した、という会社もありました。ただ現状のテレワークを見ていると、既存の働き方を維持したまま、遠隔地で作業をしているだけ、というレベルに留まっている企業も多いです。
本来のテレワークとは、仕事の進め方そのものを変えることで生産性を向上させる一つの手段だったはずです。各企業が本来のテレワークの目的をしっかり踏まえ、仕事に対する考え方を根本から変えるようになれば、テレワークがもっと本格的に浸透していくと思います。
(牧野)「リモートワーク」という言葉と「テレワーク」という言葉はおなじ意味なのですが、使われ方が少し違っています。
「テレワーク」は先ほど申した補完的なもので、「リモートワーク」は先進的なIT企業などが導入していた、オフィスにこだわらずどこでも仕事を行うスタイルのことを指します。
その意味では、これから「テレワーク」から「リモートワーク」に本格的に移行するようになれば、オフィスの面積も縮小していくでしょう。オフィスの固定費を抑えたいというのは経営者に共通する悩みですから。個々のソーシャル・ディスタンスを確保するようなオフィス設計になったとしても、やはり縮んでいくでしょうね。
(河合)内閣官房の資料によると、6月に実施されたアンケートですが、東京にオフィスを持っている経営者のうち38%が東京のオフィスを縮小する意図を持っているそうです。
(牧野)そうですか、そんな状況なら、オフィスマーケットはかなり厳しいですね。私は三井不動産でビル事業に携わっていたので、現場の苦境がリアルに想像できます。
(河合)エリアによって濃淡が出てきそうですね。丸の内、大手町のような一等地のオフィス街なら、出て行く企業がある一方で、ところてん式に空いたスペースを借りる企業が現れるでしょう。でも、雑居ビルが多い地区ではそのような循環が生まれず、空きスペースが増えたり、賃料の下落が起こったりしそうですね。
(牧野)それに加えて、オフィスビルの世界は、大が小を食うんです。つまり、よりステータスの高いオフィスビルが、小さいオフィスビルに入居している企業に「賃料を1割安くするから、こちらに来ませんか?」などと声をかける。私自身も、三井不動産に勤めていたころ、そのような営業をしておりました(笑)。
この影響が最も大きく出るのが、築年の古い小さなオフィスビルで、どんどんテナントが引き抜かれていくでしょうね。
しかも今年、2020年はオフィスビルの新築ラッシュの年なんです。やはり東京オリンピックの影響なんですね。よりによってオフィスビルを大量供給しようとしている年に、未曽有の大打撃が起こってしまったんです。
そして、次に大量供給されるのは2023年です。虎ノ門や八重洲で、次々に新たなビルがオープンします。
そのころにはコロナショックはある程度収まっていると思いますが、景気が冷え込んでいたら、オフィスビル業界にとってはさらなる危機が訪れることになります。