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一見さんおことわりはどこまで本当なのか

柏井壽(作家)

2021年04月23日 公開 2022年10月06日 更新

その場で現金をやり取りするなどという無粋なことはしない

花街のお茶屋さんが〈一見さんおことわり〉にしている理由。それは実にシンプルなもので、信用第一だからです。信頼のおける客だけを相手にして商いをしているからです。

なぜかと言えば、お茶屋遊びというものは基本的にキャッシュレス、それも後払いになっていますから、支払いの確約が取れない一見客はお茶屋さんにとって、大きなリスクを背負うことになるからです。

お茶屋さんで宴を張る。それに掛かる費用としては、飲食代、芸妓舞妓さんたちの花代、席料、タクシー代、手土産代などでしょうか。場合によっては後席のお茶屋バーなどでの費用も含まれます。

これらすべてをお茶屋さんが立て替えて支払うのです。どんなに大人数になってもおなじ。その場で現金をやり取りするなどという無粋なことは一切しません。

後日、請求書が届き、それを支払いに行くか金融機関から振り込むかします。もちろんお茶屋さんは支払い期限を定めるような野暮なこともしません。しかし信用第一ですから、客の側は遅滞なく支払います。

こうして互いの信頼関係を築いていくことで、お茶屋さんという店は成り立っているのですから、一見客を受け入れないのは当然のことだとお分かりいただけたかと思います。

いっぽうで今の時代、ふつうの飲食店はクレジットカード、もしくは現金払いが基本ですから、経営的観点から見れば一見客を遠ざける理由がありません。それでも〈一見さんおことわり〉と思われてしまうのは、先に挙げた理由からです。

あるいは、かつての料理屋さんのなかには、お茶屋さんとおなじく、掛け売り的なシステムを採用しているところもあった、その名残かもしれません。

 

イケズイメージを利用する京都人

京都人はこんなにイケズな人たちだ。そんな話をどんどん拡散され、誇張されて、さぞや京都人たちは迷惑顔をしているだろうと思いきや、実はそんなことはまったくありません。そのイメージをうまく逆利用しているのです。

今はもう鬼籍に入られましたが、無頼派として知られていた個性の強い役者さんが、とある雑誌のインタビューに答えておられたのが、強く印象に残っています。

いかにも悪人といったふうな顔付きに親が産んでくれたことを感謝している、と書いてありました。

そのおかげもあって、悪人の役を与えられ続け、仕事が途切れることがなかったのだそうです。たしかにテレビのサスペンスドラマなどで、この役者さんが出てくると、きっとこの人が犯人だろうなと思ってしまうほどでした。

それは役柄だと分かっていても、人間の心理というのは不思議なもので、きっと私生活でも強面の人だろうと思っていました。

みんながそう思っているから、楽に生きられるとおっしゃっていました。

みんなから善人だと思われていると、少しはずれたことをしただけで糾弾されるが、自分のように悪人だと思われていると、少々のことでは後ろ指を指されることもない。

むしろ、ふつうの行いをしても、いい人だと褒められてしまう(笑)とありました。

なんとなく分かる気がしますね。そして、実は京都人もこれとおなじようなものなのです。

どんなイケズをされるのかと身構えていたら、意外なほどやさしく応対された。

こんな声もよく聞きます。特別になにかをしたわけではなく、至極ふつうに応対しただけで、好感を持たれてしまうのです。

イケズという呼称は、ある意味でヒール役を演じる京都人に与えられたものなのだろうと推測しています。

 

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