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大病院の院長代理が「毎日クラシックを聴く」理由

小林修三(湘南鎌倉総合病院院長代行/昭和音楽大学客員教授)

2021年05月31日 公開 2023年02月02日 更新

 

「同質の原理」を意識する

辛いときには哀しい曲、つまり短調の曲を、ウキウキした気分のときには明るい長調の曲を。そんなふうに、自分の気持ちによって曲を替えることも大切です。

「同質の原理」といって、そのときの気分に合ったテンポや雰囲気の曲を聴くことで、精神的に良い方向に向かうことができるといわれています。今の自分の感情に寄り添ってくれるような音楽を選ぶといい、ということでしょう。

感情はよく色にたとえられますが、ハ長調やト長調といった音楽の調性も、色にたとえられることがよくあります。今、自分の気持ちを色でたとえるとしたら、どんな色ですか? その「色」を参考に聴く曲を選ぶのもいいでしょう。

以下に、それぞれの調性から連想される色とイメージを紹介します。これらは一般的によくいわれているものです。該当する曲の代表例があるものはカッコ内に記しました。

【長調】

ハ長調:「白」→開放的・人間の持つ根源的な生命力・力強い
ニ長調:「黄色または緑」→喜び・祝祭的で神を連想させる・明るい
へ長調:「若葉の色」→優しさ・純粋で広々としたそよ風
変ロ長調:「黄緑」→安定感・軽やか・無邪気・素朴・管楽器がよく鳴る
ト長調:「空色、レモン色または青」→弦楽器がよく鳴る・明るく朗らか・素朴でノスタルジック(「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」K525)
変ホ長調:「ピンク」→耽美的で英雄的・エロティック
イ長調:「明るい緑」→カンタービレ・歌謡的(クラリネット五重奏曲 K581、クラリネット協奏曲 K622、ピアノ協奏曲第23番 K488、ヴァイオリンソナタ第42番 K526)

【短調】

ト短調:「革の色」→典雅で優雅・古式ある優雅さ ※モーツァルトの運命的調性ともいわれる
ハ短調:「黒」→エネルギッシュ・堅固・芯がある
ニ短調:「黄土色」→人生を感じさせる・宗教的で哲学的な深さ
ホ短調:「緑」→せつなく物悲しい・ロマンティックさ
イ短調:「深緑」→陰り(ベートーヴェンの「エリーゼのために」)
嬰ハ短調:「黒っぽい深緑」→くすんだ響き(モーツァルトにはなし、ベートーヴェンの「月光」)

 

時間帯で変える、1日のシーンごとに変える

私の場合、目を閉じて音楽だけに集中するような時間はなかなか取れないので、移動中や食事中、仕事中など、生活のなかでそのときの状況に合わせて聴くことが多いです。

たとえば、食卓で優雅な時間をもちたいときには、ディヴェルティメントが合います。ディヴェルティメントの語源は、「楽しませる」の意味をもつイタリア語の「divertire(ディヴェルティーレ)」。

名前のとおり、もともとは「もてなし」のために作られた音楽といわれ、モーツァルトは、20曲近くのディヴェルティメントを残しています。ホテルのラウンジでよくかかっていますので、ホテルへ立ち寄る機会があれば耳を傾けてみてください。

少し華やいだ気分に浸りたいときには、セレナーデがあります。モーツァルトのセレナーデは13曲あり、13曲目の『セレナーデ第13番 ト長調K525』が、有名な「アイネ・クライネ・ナハトムジーク(直訳すると、一つの小さな夜の音楽)」です。

飛行機の中など長い移動時間中に考えごとをしたいときなどには、マーラーやブルックナーも聴きます。

マーラー作曲の『交響曲第5番 嬰ハ短調』第4楽章やブルックナーの『交響曲第8番 ハ短調』第3楽章は、宇宙規模の壮大な空間に現れる静かな音楽の進行が、ヒト一人のちっぽけな現世の悩みを堂々と、しかもゆっくりと払いのけながら進んでいくようで、とても勇気をもらえます。

判断や決定ができないときには、いったん、そこから注意をそらして、こうしたクラシック音楽を聴いてみてください。案外と聴き終わったときにはすっきりとして、それまで悩んでいたのが噓のように判断・決断を下せることもよくあります。

 

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