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「君はどうしたい?」の一言に凝縮…リクルートに受け継がれる天才のDNAとは?

大賀康史(フライヤーCEO)

2021年05月06日 公開 2022年01月13日 更新

 

採用への集中投資と社員皆(かい)経営者主義

江副浩正は創業時から狂っていると言えるほどに採用を重視していました。江副と同じ東大卒に偏ると時代を切り拓くパワーに欠けると思い、「東京、金持ち、エリート」に「地方、貧乏、野望」をぶつけて化学反応を起こそうとしました。

売上高が1,000億円を超えるころには、新卒採用一人につき600万円という途方もない金額をかけていたといいます。理系の優秀な学生を集めるために、70億円ものスーパーコンピューターの費用を採用経費でおとすという離れ業もしています。

採用を重視するのは、現代の巨人グーグルも同じです。グーグルの人材戦略は採用を重視しています。上位10%の人材は育つスピードも早く、成果を出すととらえているようです。

人事予算に占める採用費用は、平均的企業の2倍にもなると言われています。グーグルの象徴にもなっている採用への集中投資という成功法則を、江副は1980年代に見出していたのです。

リクルート社員のもう一つの特徴は圧倒的な当事者意識です。社員が1,000人になる頃に、拠点別部門別会計(PC制度)を導入しました。平成に入ると独立採算の小集団が1,600社ある状態になったといいます。

「君はどうしたいの?」と言われ続けた1,600人の「社長」がいて、「自社」の業績に責任を持ちました。これを江副は「社員皆経営者主義」と呼んだそうです。

 

突出した存在をたたえられるか、嫉妬するか

江副は革新的なIT事業を進めました。その中でも突出した大きさの構想が、「リモート・コンピューティング・サービス」でした。

それは日米欧に設置したスーパーコンピューターを回線でつなぎ、コンピューターの時間貸しをするという、いわば現代の「クラウド・コンピューティング」です。

クラウド・コンピューティングの市場では、アマゾンのAWS、グーグルのGCP、マイクロソフトのAzureという世界の覇者が競い合っています。それを30年ほど前に手がけていたのですから、江副の構想力は際立っていたことが想像できます。

そのような希代の実業家だった江副浩正は、不動産や政治家に関わるようになって生じた驕りの気持ちが隙を作り、リクルート事件で足をすくわれます。

このような人生を驕れるものも久しからずという諸行無常の物語とみるのか、はかなさも含めた美しく完成した人生とみるのかは、人によって分かれるところでしょう。

突然あらわれるこのような才能を、世の中がどのように受け止めるのかは、国民性が表れるように思います。

日本は、世間で目立った人がメディアで叩かれ、特捜部が動くというシナリオを何度も経験してきています。それを国民の不満のはけ口にして、エンターテイメント的に消化されてしまう怖さも感じます。

『起業の天才』というタイトルをつけられていてそれには全く異論がありませんが、江副浩正は人材採用の天才でもあり、優れたビジネスモデルを創出する天才ともとらえられます。

好奇心で読み進め、カタルシスと喪失感を味わうという他の本では味わえないストーリーに引き込まれるのは、著者の筆致のなせる業です。事業に携わる人であれば楽しめる、最高の知的エンターテイメント作品をぜひ手に取ってみて下さい。

 

著者紹介

フライヤー(flier)

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