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元自衛官の校長先生は“モンスター・ペアレンツ”にどう対応したのか?

竹本三保

2021年05月21日 公開 2024年12月16日 更新

強力なリーダーシップが要求される自衛隊、それが公立高校で通用するのか?

一等海佐から大阪府立狭山高校校長へ転身した竹本三保はこう述べる。「組織を動かし、人を動かして任務にあたるという文化が、自衛隊と学校とでは大きく異なるとはいえ、最終的には高い志、夢や希望が持てるという、やりがいのある職場環境づくりが大切だということには変わりはない。

そのためには優れた見識のあるリーダーが必要であり、また育てることが急務かと考える。これは自衛隊や学校に限らず、企業や団体、地域、スポーツ界など、人と人が結びついて成り立っている、あらゆる世界についても同じことが言える」と。

女性自衛官としての道を切り開き、高校の校長先生へと転身した竹本氏が実行してきた"リーダーシップ"を紹介する。

※本稿は、竹本三保 著『国防と教育 ~自衛隊と教育現場のリーダーシップ~』(PHP研究所)から抜粋・編集したものです。

 

モンスター・ペアレンツとの応対

一時期『モンスター・ペアレンツ』という言葉が流行りましたが、本当にモンスターなのかどうかは、個々の事案の事実関係をつぶさに検証し、保護者からの話をしっかり聴いた上で判断しないと、正しい対処はできません。

ワイドショーなどで取り上げるような、一方的に悪者扱いする単純な問題ではないのです。こうした場合も校長は先入観なしに教員や生徒、保護者の話に耳を傾けて、冷静な姿勢で決断、行動をしなければなりません。

校長に着任して間もない頃、暴力事件が起こりました。男子生徒同士がケンカになりそうになり、その状況を察した女性教師が止めようとしたのですが、自分の手には負えないと判断して同僚を呼びにその場を離れました。

ところがまさにその時、事件が起きてしまったのです。女性の教員にとって、大人ほどの腕力のある男子生徒たちのケンカというのは恐怖ではあったかとは思いますが、生徒を守るべき立場なのに現場を離れ、守れなかったのは事実です。

ただ、本当の問題はここからです。新学期でバタバタしていた時期ということもあり、保護者とのボタンの掛け違いが数多く起きてしまったのです。

教員が信用を失い、生徒指導部、学年主任、教頭までが入りましたが、解決できないところまでこじれてしまったのです。私がまだ着任したばかりだということで、ギリギリまで問題として上げないで、自分たちで解決しようとしていました。

教員たちはその保護者のことを『モンスター・ペアレンツ』と呼んでいましたが、「本当にそうなのかな?」と思いつつ、とうとう校長自らが対応することになったのです。

夜の7時から9時半頃まで、二度にわたり加害生徒のご両親の話をうかがいましたが、教員の対応について、こと細かに指摘をして詰め寄って来られます。

話をしていくうちに、ケンカの事実を認められた上で、ご両親が最も恐れていたのが"懲戒による将来への影響"であることを聞き出しました。つまりそれを何とかしたいというのが要求事項で、実際にどうするかは校長の権限でできますから要求事項は必ず聞くというわけです。

そこで私とご両親とは、学校は将来社会に出るための教育の場ですから、彼が今後どう変われるのかが大事であり、どのような心構えで生活していけばいいか、ということについて前向きに話し合いました。

本人は明るく屈託のない生徒です。悪意があるわけでもなく、ものの弾みだったように思います。むしろ、生徒を守れなかった教員側の落ち度の方が大きいと私は考えていました。

そして最終的には、「私に任せて下さい。民間人校長としてのこれまでの経験を信じて下さい」と頼み、収めることにしました。するとご両親も、「それではお手並みを拝見します」ということで、矛を収めてもらったのです。

 

自分が正しいとは限らないという立場で

教員たちは『モンスター・ペアレンツ』という言葉をすぐに使いますが、真摯に自ら反省をして保護者の話を聴こうともせず、自己を正当化してしまうので、平行線となり対応を難しくしている場合が多々あります。

それは教員の多くの傾向として、もともと賢いので自分が攻撃されると理論武装で何とかしようとします。相手の心情を慮ることなく、理論で何とかしようとするからこじれてしまうのです。

一度状況をリセットして、冷静に判断し直せばいいのですが、相手は『モンスター・ペアレンツ』だから、こちらは悪くないという先入観があるので話が収束しないのです。

この事例も事の起こりと経緯を冷静に見てみると、明らかに学校側に落ち度があり、怒りを募らせた保護者側に、きちっとした対応ができなくなってしまったのだと思います。

こちら側から見ればあちらが敵でも、視点を変えてあちら側から見ればこちらが敵なのです。必ずしも学校(自分)が正しいとは限らないという立場を貫いて、ケース・バイ・ケースで判断していかなくてはいけません。

その後何回も保護者からの訴えを聴くことがありました。そのたびに事実をよく見極め、教員側、保護者側の意見を公平に判断する必要があります。

時には、保護者が抱えているものが重すぎて、カウンセリングや医療を必要とする場合や、あるいは福祉の面からのサポートが必要な場合がありました。

また、法外な慰謝料などを請求される場合には、弁護士や警察との連携が必要となるでしょう。ですがお話を聴きながら、相手の立場を理解し、なぜそのような訴えになるのかを考えれば、意外と和解の糸口は見つかると思います。

リーダーとしてはとにかくどんな状況であろうとも、思い込みなく、互いの話をよく聴き、公正中立の立場で対処する気持ちが大切かと考えます。

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卒業させないという「愛のムチ」

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