他人と自分の間に必要な「境界線」があいまいなタイプ
そして、過剰適応の背景に「自他の境界線」の問題があります。人にはそれぞれ守るべき領域があり、他人の問題と自分の間には境界線を引くことが必要です。
しかし、自分が嫌われるのを恐れ、他人の期待を先回りして満たそうとして、どんな要求にも応えてしまう人もいます。境界線をうまく引くことができず、自分が守るべき領域に他人のラインオーバー(侵入)を許してしまうのです。
要求を断らないでいると、「この人は当然ここまでやってくれるのだ」と、相手の期待値がどんどん上がっていきます。悪い意味で「そういう人だ」と役割が固定化されてしまうのです。
そうなると、こちらの「持ち出し」ばかりが増えていき、内心しんどいと思っているにもかかわらず、たいして感謝もされない関係になっていきます。
自分がないがしろにされているように感じ、自分のことも周囲のことも少しずつ嫌になってしまいます。さらに、他人の欲求をエンジンにしている人は、なかなかブレーキを踏むことができません。
限界まで心身を追い込まないと止まれないのです。「期待に応えなければいけない」というポリシーがあることで、パフォーマンスの向上や他者からの評価につながりやすい一面はあるかと思いますが、すべての他人の期待に応えつづけることはできません。
「これ以上は難しい」と感じたときにはNOを言う勇気と技術が必要になってきます。
境界線を引くために必要なこと
自分を守れるようになるための境界線は、一朝一夕でできるものではなく、少しずつ育てていくものだと思います。そのために必要な行動をいくつか考えてみたいと思います。
●対人関係の違和感に気づき、認める
まずは、他者からのラインオーバーに気づく必要があります。それは対人関係で感じたモヤモヤとした違和感を放置しないということです。すぐに反抗や拒絶などの行動にうつす勇気がなくてもかまいません。ただ、「これは自分にとっての理想ではない」「これはフェアではない」ということを認めるだけで、境界線を育てることにつながります。
●自分にとって大切な対人関係を見極める
ラインオーバーされていると感じたら、そうした人間関係からは距離を置きましょう。そして、あなたを尊重し大切にしてくれる人をしっかりと見極め、その人たちとの人間関係が相対的に増えるように取捨選択していくことが重要です。
自分を大事にしてくれる人を大事にすることが、自分を大事にすることにつながります。見極めは簡単ではないですが、「しんどいときにも会える」と思えるような人が、あなたを尊重してくれる人である可能性が高いです。
●「私」を主語にする会話を心がける
これは臨床心理士の信田さよ子先生が強く推奨している方法です。他人を主語にするのではなく、「私はこう感じます」「私はこう思います」というように、自分の主観を絶えず表明していくことです。
主語が省略された関係は、親密であると言えますが、一方で、過度になると「このくらい言わなくてもいいだろう」「相手の気持ちも同じだろう」といった甘えをもたらしかねません。「私」を主語にすることは、「あなたとは違う私」「私とは違うあなた」という個々の主体性の違いを意識づけ、あるべき距離感を生み出すことにつながります。
●他人からの要求とは距離を置いて、休む
他人に振り回されるのに疲れてしまったら、他人が自分に向ける「要求」からしっかり離れ、一度休みましょう。
休んでいる時間は自分だけのために使ってください。五感をしっかりと動かして「自分の欲求」を見つめて、満たしていく行動を取るのです。そうすることができれば、自分の欲求と他人の欲求のバランスがとれるようになっていくでしょう。
----------------------------------