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“昇進をためらう女性社員”が恐れている「夫のプライド」

村井真子(キャリアコンサルタント、社労士)

2021年07月28日 公開

有能な女性社員に昇進を打診したら断られた――。

筆者のもとへ寄せられる相談の中でも特に多いのが、この種の相談です。幹部候補として遇したいと優秀な女性社員に声をかけたら、「私には無理です」と断られてしまう。男性社員であれば喜んで受けてくれる人のほうが多いのに何故?というご相談です。

私が100名を超える女性に対しヒアリングしてきた内容を分析すると、その理由は大きく分けて3つになります。

 

(1)昇進によって「夫とのパワーバランス」が揺らぐことへの恐怖

1つ目は、昇進によって夫とのパワーバランスが変わってしまうことへの恐怖です。

昇進することにより、対象となる女性の生活環境は大きく変わります。対応すべき案件が増えて時間外の問い合わせに対応しなければならなかったり、立場上参加しなければならない会合の幅が増えるなど、それまでであれば上司が対応していた業務を一部または全部担うことになる。

または接待や出張が増える。もちろん、それにともなって仕事はやりがいのあるものになるでしょうし、扱える金額は大きくなり、報酬も増額していきます。

こうした変化で生じるのが、現在の夫とのパワーバランスの揺らぎです。

日本においては、いまだ「男性が稼ぎ女性が家を守る」というジェンダーバイアスが根強く残っています。この価値観を自分の中に内在化させている夫婦の場合、昇進したことで夫より所得が増える、夫の役職を超えてしまうことに女性側も潜在的な恐怖を感じてしまうのです。

夫の方に経済的優位性があるからこそ、妻が仕事をしていても夫は「自分が家庭の大黒柱である」という自分のアイデンティティや家庭での地位を脅かされずに済んでいた。

この夫のプライドを自分の昇進で折ってしまうことになったら、と女性は考えてしまうのです。その場合、悪くすれば離婚という可能性も出てきます。夫婦ともに経済的に自立しているからこそ、そのような選択を選びやすくなってしまうのです。

忖度といえば忖度ですが、夫に対する愛情、気遣いがあるからこそ昇進を反射的に拒んでしまうという女性の考え方があるということを、経営者の方にはぜひ知っていただければと思います。

 

(2)昇進することに「割りの合わなさ」を感じている

2つ目は、昇進することによって課せられる業務内容・権限や、責任を抱えることに対するストレスが報酬に見合わないという考え方です。

幹部候補は常に社員の衆目にさらされる存在です。企業規模にもよりますが、昇進によって仕事の内容は部下のマネジメント、進捗管理、経営方針に沿った新規展開など劇的に広がることになりますが、同時進行でこれら個別の案件を抱えていくのは精神的にも肉体的にもタフさが必要。

幹部候補として声を掛けられる方はもちろんこれらの事態に対応できるだろうと期待されるだけの優秀さがあるわけですが、そのような方であるからこそ例えば業務権限が肩書に対して狭かったり、職責に対して報酬が低いということに対しても敏感です。

実際、私のヒアリングの際に打診された報酬に不満を漏らしていたある女性は、その後同業他社に転職。就職先から提示された報酬額は現職の2倍に近いものだったのです。責任は重いけれどやりがいがあるし、報酬もこれだけ貰えるのだから頑張りたい、とその女性は教えてくれました。

名ばかり管理職など肩書だけが独り歩きして報酬が伴わない場合や、与えられる権限が極めて低いなど肩書に見合わない場合、女性は冷静に自分にとって昇進がどのようなリターンをもたらすのかを計算します。

その結果、割に合わないと判断すれば昇進を断るのです。このケースの場合、提示する報酬額によっては即退職という事態もあり得ます。自分のことを優秀だと評価していたのにこの程度の評価額なのか、と会社に絶望して転職してしまう場合も多いのです。

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(3)家庭と仕事を完璧に両立させたいという願望

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