森喜朗元首相による女性蔑視発言が問題視され、論議が巻き起こり、多くの女性が声を上げるきっかけとなった。そして、この騒動を受けてか、東京大学で2021年度からの新執行部の体制で女性を過半数とすることを決めるなど、ようやく日本が、「女性が輝ける社会」へと変わりつつあるようだ。
しかし、実際にはまだまだ、女性が働く環境は厳しい現場にあり、女性が働きながらライフプランを考えることは、男性に比べハードルが高い。
そんなハードルを乗り越えながら「女性の生きる道」を切り開く女性二人に話を聞いた。
大畠流花さん(26)と山本美砂さん(29)は川崎市多摩区登戸にある『たま耳鼻咽喉科クリニック』で働く。二人とも中途採用であったが、その転職活動で「女性が働く」という難しさを知ったという。
夢だった看護婦として働き始めるが…
大畠流花さんは、栃木県で生まれ育ち、「人のためになりたい」と看護の道を志した。国立大学の看護学部を目指し、勉強に打ち込み見事に合格した。
「教育学部1年、看護学部4年、看護師として生き生きと働く自分を想像して頑張っていました」
看護学部は、実習も忙しく、遊ぶ時間もない学生時代だったが、夢のために頑張ることができた。5年間の努力が実り、ついに看護師となった大畠さんが目指したのは小児科の看護師。
最初に配属されたのは地方の大学病院だった。しかし、希望を胸にスタートした大学病院での日々は、期待とは大きく違うものだった。
「仕事を始めて3ヶ月後には、1人での夜勤をすることが当たり前えでしたが、経験が浅く、患者さんの急変時等に100%対応できるかというと不安な点も多く、そのストレスはとても重いものでした。大学病院という厳しい環境が私には合わないと感じていました」
また、大学病院の勤務で経験を積むことも期待していたが、実際には少し違ったという。
「例えば、小児の採血や注射は医師が行うので看護師としての技術を磨くことができず悩む日々でした」
また、大学病院に感じる独特の雰囲気があったと話す。
「言葉には出しませんが、『結婚、出産、はい、サヨナラ』という感じや『変わりはいくらでもいる』というプレッシャーを感じることもありました」
夢に描いた自分を実現できる職場ではないと考えた末、転職を決めた。
求められるスキルと合わず、難航する転職活動
「キャリアップのために転職活動を始めましたが、看護師としての高いスキルを求められる求人が多く、『働くところが見つからないのでは』と不安になりました」
『採血ができないなら採用不可』など具体的な条件を提示する医療機関もあり、「未経験ok」という医療機関は、そう多くないという。
「看護師の場合、経験してきた『診療科』と違う転職が難しいことは知っていましたが、想像以上に厳しく、心が折れてしまいそうでした」
自己否定に陥りそうになりながらも転職先を探す中、『たま耳鼻咽喉科クリニック』の募集に目が止まり応募することを決めた。
「未経験OKとあったのでそれを信じ、内心は『落ちるかも』と思いながらも、『採血が苦手です』と院長の及川貴生先生に伝えると『大丈夫、全く問題ありません!必ずできるようになります。一つ一つ経験を積んでいきましょう』といってくださって、ようやく私が生き生き働くことができる場所がみつかったと思いました」
現在、コロナ禍で看護師の不足などが問題となっていることから、有識者や政治家等が『離職中の看護師に復職を求める』などと発言しているが、実際には、看護師を取り巻く環境は簡単なものではなく、即戦力が求められ、『人材を育てる』というスタンスに欠ける医療機関もあり、経験がなければ転職も難しいようだ。
大畠さんのように看護師として将来有望な人材が活躍できる仕組みや職場環境を作ることも現在の日本の大きな課題と言えるだろう。
「これまでのことで、転職にも『縁』があると感じました。女性が働き続けるには、自分に合う職場環境を見つけることが大切だと思います。今、転職や職場環境に悩んでいる女性がいたら諦めず、『縁』を探し当てて欲しいと思います」