「やりたいことがない」と悩む娘に母親が放った“意外な一言”
2021年09月03日 公開 2024年12月16日 更新
アフリカやアマゾンをはじめとする少数民族や、世界中のドラァグクイーンを撮影し発表するフォトグラファーのヨシダナギさん。自らのこれまでの人生を「逃げの人生」だと振り返る。
ヨシダさんの新しい著書『しれっと逃げ出すための本。』では、アフリカ人に憧れを抱きフォトグラファーになるまでのことや、生き方について語っている。
同書のなかでヨシダさんは、「やりたくないこと」から逃げた結果、写真の仕事があるという。現代社会では"やりたいことを仕事にすべき"という風潮が強く見られるが、それに対してどう考えるのか。
※本稿は、ヨシダナギ 著『しれっと逃げ出すための本。』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
やりたいことより「できなくないこと」を
私にはそもそも、やりたいことがあまりない。それがコンプレックスでもあったのだが、あるとき母親に、「やりたいことがないなんて、お金がかからなくていいじゃない」と言われて、すごく救われたのを覚えている。
経済的負担をかけずにすんだので、これも一種の親孝行なのだと思えば、やりたいことがなくてよかったとすら思っている。「やりたいことを見つけて、それを仕事にするべき」という世の風潮にプレッシャーを感じている人は多いと思う。私もそうだった。
「やりたいことを仕事にする」というのは、けっこうハードルが高い。欲しい服が必ずしも似合うとはかぎらないように、好きなことと自分ができることは明らかに別モノである。自分の興味があることで、なおかつ仕事にできることなんて相当限られてしまう。
そこで、「すごく好きというわけじゃないけど、できなくないこと」という選択基準を一つ増やすだけで、仕事の選択肢はかなり広がると思うのだ。私の場合でいえば、「カメラのシャッターボタンを押すこと」が、まさにそれだった。
フォトグラファーという仕事をしていながらいうのもなんだが、私はもともとカメラや写真が好きなわけではない。でも、私にとってはイラストのゼロから生み出して描く作業よりも、シャッターを押すだけのカメラのほうが精神的負担が軽かったのだ。
いまは幸いなことにカメラの性能がずば抜けていいおかげで、カメラについての専門知識がなくても、シャッターを押すだけでそれなりの写真を撮 ることができるし、モデルさえよければ写真もカッコよく見えるのだから不思議である。
私は、自分の好きなことを仕事にしてはいけないタイプの人間であることを、イラストの仕事で挫折して学んだ。その点、好きでも嫌いでもなくて、自分にできなくもない「写真を撮る」ことはちょうどいい。いい距離感を保つことで、いまもフォトグラファーを続けることができているのだ。
そして、撮影という行為自体が好きではないからこそ、心から会ってみたいと思える被写体にだけしぼることで、カッコよく撮ることに全力をつくせているのだとも思う。
そこだけはいままで一度もブレていないと、少しだけ自信をもっていえる のだ。やりたいことがないという人には、まず、「絶対にイヤだと思うこと」をリストアップすることをおすすめしたい。
そして、そのリストに該当しないものから進学先や職業を選んでみることも、少し検討してみてほしい。ちなみに、私の絶対にイヤなことリストには、「毎日決まった時間、同じ場所に通うこと、協調性が重要視される集団行動」が入っていた。
とりあえず、「絶対にイヤ」ではないことで、なおかつ「できなくないこと」に目を向けることさえできたら、選べる仕事はすごくたくさんあると思うし、将来の仕事選びの悩みもかなり減るんじゃないかな、と私は思っている。