「それ、おかしくないですか」と素直に言えなくなる会社の危うさ
2021年09月14日 公開
日本のチームに必要な心理的安全性の4因子
私たちの研究チームでは、サーベイづくりの科学的手法であるupdated COSMINを参照し、組織の心理的安全性を計測する組織診断サーベイを開発し、これまで6000人・500チームの「日本のチームの心理的安全性」を計測しています。
筆者が在籍する株式会社ZENTechでは、慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授と共に、日本版の設問(尺度)を開発しました。
こうした研究とビジネスの現場の計測から見えてきたのは「日本の組織では、(1)話しやすさ、(2)助け合い、(3)挑戦、(4)新奇歓迎 の4つの因子があるとき、心理的安全性が感じられる」ということです。
「(1) 話しやすさ」因子
最も重要かつ、ほかの三つの心理的安全性の土台ともなるのが、この「(1)話しやすさ」因子です。
「(1)話しやすさ」が確保されている時、報告や連絡、意見や立場の表明、雑談も含めた情報共有や、指示や依頼を理解するための質問などが、チームの中で飛び交います。例えば、
・みんなが、同じ方向を向いて「これだ!」となっている時、それでも反対意見があれば、それをシェアすることができるか?
・「問題」や「リスク」に気づいた瞬間・感じた時に声をあげられるチームか?
・知らないことや、わからないことがある時、それをフラットに尋ねられるか?
などが「(1)話しやすさ」因子の例だといえます。つまり、報告がネガティブなものであっても、隠し事なく「事実は事実として上がってくる」ようなチームです。
「(2) 助け合い」因子
「(2)助け合い」が確保されていると、チームはトラブルや行き詰まりに際し、必要な事実を共有し、相談し、支援・協力を求めることができます。また、担当者やチーム・部門の垣根を超えて、あるいはクライアント相手であっても必要な依頼をし、必要な負荷をかけて成すべきことを成し遂げようとします。例えば、
・問題が起きた時、人を責めるのではなく、建設的に解決策を考える雰囲気があるか?
・チームリーダーやメンバーは、いつでも相談にのってくれるか?
・このチームは減点主義ではなく、加点主義か?
などが、「(2)助け合い」因子の例だといえます。
よい相互作用ができるチームかどうか、というのがこの「(2)助け合い」因子なのです。
「(3) 挑戦」因子
「(3)挑戦」が確保されている時、チームは正解がない中で模索し、実験し、機会をつかむことができます。冗談のようなアイデアや仮説も歓迎し、論理的な正解を越えたジャンプを試してみることができます。例えば、
・このチームでは、チャレンジ・挑戦することが損ではなく、得なことだと思えるか?
・前例や実績がないものでも、取り入れることができるか?
・多少非現実的でも、面白いアイデアを思いついたら、チームに共有してみよう、やってみようと思えるか?
などが「(3)挑戦」因子の例だといえます。
「(4) 新奇歓迎」因子
「(4)新奇歓迎」(新しいことや違いを受け入れられる)が確保されているとき、過去の常識から解放され、個々人の才能に合わせた最適配置や、チームとしてアウトプットの最大化を目指せる役割分担が行えるようになります。「(4)新奇歓迎」因子は「(3)挑戦」因子より、人に焦点を当てた因子です。例えば、
・役割に応じて、強みや個性を発揮することを歓迎されていると感じるか?
・常識に囚われず、さまざまな視点やものの観方を持ち込むことが歓迎されるか?
・目立つことも、このチームではリスクではないと思えるか?
などが、「(4)新奇歓迎」因子の例だといえます。
人間を同質な集団として歯車や道具のように扱い、一律に扱うことは、マネジメントをする側の手間を減らします。しかし、このVUCA(社会経済が予測不能)の時代にチームとして競争力を持つには同質性を前提としたマネジメントでは、もはや足りないでしょう。
マネジメントの手間も引き受け、多様性を活かした個々の才能を掛け算しながら、組織のビジョンや、チームが大切にしたい方向へ向けて推進していくのが、この「(4)新奇歓迎」因子なのです。
「給料は苦痛に耐えたボーナス」で、「自分を守る、怒られないための仕事」や「トラブルの犯人探し」をしていた、そんな「非」安全な職場に心理的安全性がもたらされることで、人々は意義あるゴールに向けて健全に意見を衝突させ、助け合い、物事を前に進める仕事をするようになります。
働く人々の目に意思の光が戻り、チームとして妥協点を高く持ち、仕事そのものから充実感が得られる。そんなチーム・組織をつくり、所属する一人一人を輝かせることで成長と成果を導くのが、心理的安全性です。