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生き方

「また、生まれ変わっておいで」23歳の猫と男性が過ごした“最後のお正月”

佐竹茉莉子

2022年01月18日 公開

 

別れのとき

夏が過ぎ、秋が過ぎた。ふたりが共に過ごせる最後になるだろう冬が来た。12月に入ってからはガクンと食欲が落ちた。

寝ていたホットカーペットに初めての粗相をしたねぎに、いっとくさんは、「クリスマスプレゼント」と言って、新しいカーペットを敷いてやった。そして、「2021年まで生きようね」と約束した。大みそかは、もう目を開けることもしないねぎに、思い出をたくさん語りかけて過ごした。

正月の2日間は、ずっと寄りそっていた。ねぎの頭をそっと撫でて「ありがとね」と言うと、ねぎは、びっくりするほどはっきり顎を引いて、うなずいた。

3日の朝も変わりはなかったので、いっとくさんは、ねぎの隣に寝転んで本を読んでいた。ねぎが、何度か大きな息をした。手を握ると、しっかりと握り返してきた。何度目かの大きな息の後ねぎは旅立った。2021年まで生きるという約束をちゃんと守って。撫でながらそっと話しかけた。

「ねぎ、また、生まれ変わっておいで。生まれ変わって、お父さんの猫になりなさい」

 

また、きっとどこかで会える

ねぎは、そこで、ただ眠っているかのようだった。

想像していたような、耐えきれないほどの悲しみやつらさは襲ってはこなかった。 悲しみが混じる、静かな幸福感の中にいっとくさんはいた。

思えば、ねぎが病気になってから5年間、いっとくさんは、そしてきっとねぎも、「死」という別れの一点を見て生きてきた。そのときにけっして後悔しないよう、毎日毎日精いっぱい楽しく過ごした。ねぎが、この父を悲しませまいと長い時間をかけてお別れをしてくれたのだと思った。

とはいえ、ふとしたときに涙がこみあげる。買い物に出て、ねぎの好きそうな魚を見たときとか、餌皿にちょうどいいものを見つけたときとか、ただ歩いているときとか。窓の向こうから、「入れて」と帰ってくる気もする。

ねぎと出会ったのも、ずっと前からの約束だったのかもしれない。きっとまた、生まれ変わったねぎに会える。一目見て、ねぎだとすぐに気づき、その子も僕だとすぐにわかるだろう。うっかりして、違う毛色になったねぎに気づかないといけないから、ふたりだけの秘密のサインも、別れの日に決めた。

そういえば、ついこの前のこと。明け方、寝床のすぐわきに、3色のかたまりのようなものがいる。すぐにねぎだとわかったので、「よう」と言って抱きかかえ、「何やってんだよ」聞くと、かたまりは答えた。「今度は何色に生まれ変わるか考えてる」

笑って、目が覚めた。

桜の季節に分骨をした。向かう車の中で、最後の「メロディー」を歌ってやった。

しっぽの辺りの毛を少しと、指と思われる細い骨を入れたロケットを持ち歩いている。ポケットの中でそっと握ると、ねぎと手をつないで散歩をしているようで、楽しい。

「ねぎ、また会えるのは、いつになるのかな」

 

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