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やなせたかしさんが泣いた「小学校の先生からの手紙」

やなせたかし

2022年02月14日 公開 2022年07月07日 更新

 

善の心と悪の心

 最近の読者は、敵をむやみと殺したり刺激が強い漫画に慣れています。殺しあいの場面がない、アンパンマンには徹底的にやっつける場面がないので、読者を満足させるということでは、生ぬるくて、刺激がなさすぎるかもしれません。でも刺激があるということが必ずしもいいことではありません。激突ばかりでは神経がマヒします。

 子どもも悩むこともあって成長し、親にすねたり反抗したりして成長しています。だから絵本でも童話でもその中に子どもにちゃんと伝わるものがあると、子どもも面白いとわかる。面白いものは面白い。面白くないものは面白くない。

 子どもはボクの思いをしっかり受けとめることはできないかもしれませんが、それでいいとボクは思っています。

 子どもたちには、「愛、勇気」をもってほしい。いまの時代ではこうしたことをまともにいうと恥ずかしいという風潮があります。しかし、「愛、勇気、冒険」といったことはとても大事なことです。その中でたすけあおうという気持ちが出てくるからです。

 バイキンマンが好きという人もいます。アンパンマンは武器をもってなくて素手。反対にバイキンマンとか、敵側はいろいろな武器をもっている。素手で武器をもつ敵と戦っているのがアンパンマン。しかし徹底的に敵を打ちのめすというところまではいかない。その手前で止めるというところが、ボクは大事だと思っています。

 社会においても、善と悪の要素があってバランスがとれて物事の進歩が見られるように、人の心にも善悪の心があって、そのバランスがとても大事です。

 善の心をアンパンマン。悪の心をバイキンマンとか、敵側として表現しています。善の心が悪の心に打ち勝つことがあって、人は抵抗力を身につけ精神的に鍛えられ、成長する。善悪のバランスがあってこそ抑制力もできてくる。絶えずバランス感覚をもった人間であることは、人として生きていく上で必要です。

 善の心だけでは純粋すぎるし、精神的な抵抗力も育ちません。偏った生き方になってしまう。バランスをもって社会で生活していかないと、他人の心も理解できない。アンパンマンには冒険がたくさん出てきますが、ボクたちの子どもの頃、手足のケガや傷は日常のことでした。いま、母親たちは子どもに冒険をさせないでしょう。けれど冒険しないと成長できません。

 傷ついてもケガをしてもいい。極論すれば、子どもに冒険させないのは成長を阻むことになる。だからこそ、アンパンマンは愛と勇気をもち、とても冒険好きなのです。傷つくことを恐れず、微笑しながら冒険にたちむかっていきます。

 しかし決して自分からしかけることはありません。

 宿敵バイキンマンにさえ優しくする事があるくらいです。

 そして雨に濡れてもすぐパワーがおちてしまうぐらい弱くて、すぐにやられてしまいますが、最後はやむにやまれぬとどめの一発アンパンチ!

 

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