人間として、不安を感じたり落ち込むことは当たり前。しかし、その不安を無理やり抑え込むことは自然ではありません。不安を抑え込まずに味方につける方法を、産業カウンセラー片田智也氏が教えてくれます。
※本稿は、片田智也 著『「メンタル弱い」が一瞬で変わる本 何をしてもダメだった心が強くなる習慣』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
自然な弱さで悩めるのは真剣に生きている証拠
イヤなできごとがあったり、ことがうまく運ばなかったり、理不尽な目にあったりすれば、誰だって落ちこみを感じるものです。大事なことが控えているなら、「うまくいくだろうか」と不安な気持ちが湧いてくるのも自然なこと。
マイナスの面を見て否定的になることがあってもいい。ネガティブな気分で、後ろ向きに過ごす時間があるのもおかしなことではありません。
なぜあなたはそういった自然な弱さを否定してしまうのでしょうか。
落ちこんだり、不安になったり、クヨクヨしている姿を人前で見せる必要はありません。でも一人の時間でさえ、それらをごまかしてしまうのは、どうしてなのでしょうか。
あなたは自然な弱さを恥ずかしいものだと思っていませんか。そうやって意味のある感情を否定していることこそ、メンタルが強くならない原因なのです。
「仕事の契約が更新されないことがわかって、落ちこんでいます」と言うのは三十代の女性。「早く次の仕事を見つけたいのにやる気が出なくて、どうしたら元気になれますか?」と困っていました。「それがわかったのはいつなんですか?」と聞くと、「昨日です」とのこと。
私はこう答えました。「昨日?落ちこんで当然のできごとですし、あと2、3日、もう少し落ちこんでみませんか?」と。
不利な状況や不都合な現実に直面すると、気分がふさぎこむように人のメンタルはできています。一人の世界に閉じこもりたくなるのは、誰にもジャマされない環境で、静かに現状把握するため。
「落ちこむように」と勧められた彼女は、「そんなこと言われたの初めてです」と笑って答えました。あとになって彼女から「しっかり落ちこんだからなのか、あの日の翌朝、もう元気になって仕事探しに出かけちゃいました」と聞きました。
落ちこみを肯定されるとなぜか元気になる、不安を認められると、どこからか安心感が湧いてくる。こういった非論理的でヘンテコな現象が起きるのが人のメンタルです。
でもこれはけっしてふしぎな現象ではありません。落ちこみも、不安も、あらゆるメンタルの弱さはそれぞれ意味を持っています。そしてその意味とは、あなたのことを守るためのものなのです。
自然な弱さは「人間らしい」と認めてしまおう
私の妻は2011年3月11日、東日本大震災があった日、心療内科でうつ病と診断され、その後、2年間、休職することになりました。直接の原因は、過重労働。
実は、その何カ月も前から兆候はあったのです。家に帰っても落ちこんだ様子でまともに食事もとらない。なのにアルコールの量は増えていく。「本当に大丈夫?」と何度も尋ねたものです。でも、妻は「大丈夫」と答えるばかり。
最終的に、「不安で電車に乗れなくなったこと」によってやむなく、休職することを決断してもらえました。
あとあと聞けば、やはり妻にもありました。不安で会社に行けなくなる、「そうなるにふさわしい理由」があったのです。
当時、妻が所属していた部署は「ある理不尽な案件」を抱えていました。誰がやってもうまくいかない。そんな部署の管理を任されても、マジメでお人好しな妻は断ったり、誰かに投げたりすることができません。ネガティブな気持ちをガマンして、ごまかしながらがんばっていたのでしょう。
そうなる前から落ちこみや不安、食欲不振、不眠といった兆候はあったのに。意味があって現れている警告信号であることに、もっと早く気がついていれば、と何度も悔やんだものです。
妻と同じ状況になったとしても、「どうせムチャな仕事なんだし、できなくていいや」と開き直れる人もいれば、そうでない人もいるでしょう。
まわりはがんばっているのに、みんなはどうとも感じないのに、「こんなささいなことで」と情けなくなっても、どんなに理解しがたい、納得しかねる感情であっても、本人の内面には「そう感じるにふさわしい理由」がかならずあります。
それは他人と比べたり、一般論で正しいかどうか推しはかったりするものではなく、本人がそう感じていること。それだけが真実なのです。
これまでたくさんの方のカウンセリングに携わりましたが、きちんとお話を聞けた方のうち、「そう感じるにふさわしい理由」がない人は一人もいませんでした。
落ちこみ、不安、マイナス思考、ネガティブさ──、客観的に見ると、理解しがたいものでも、よくよくご本人のお話をきちんと聞くと、かならず理由があるのです。
それは異常なものなどではなく、むしろ正常な反応であり、とても人間らしいと思えるものばかり。
どんなに不可解な感情でも、「そう感じるにふさわしい理由があること」を信じて、たとえハッキリ理由が見つからなくても、「わからないけどきっと何かあるんだろう」と理由の存在を疑わないでください。
そのうえで「人間らしい、ふつうの反応だ」と認めるのです。それが自然な強さをつくっていくための準備となります。