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物理学者が「儲かるビジネス」を直感で見分けられる理由

深井龍之介(COTEN代表)、野村高文(音声プロデューサー)

2022年07月19日 公開

各学問のトップランナーとの対話を通し、教養(リベラルアーツ)の核に触れることで思い込みを捨て新たな視点が得られるヒントとなる書『視点という教養 世界の見方が変わる7つの対話』。

「10年近くビジネスをやってきて、ビジネスモデルの構築は、物理の理論構築とよく似ていると感じています。ひたすら学んで理解していくと、うまくいくかどうかが直感的にわかるようになる」

そう答えるのは、元楽天常務執行役員として日本を含む海外5拠点の組織を統括する傍ら、『Science』などの学術雑誌へ20本以上の論文を発表した経歴を持つ物理学者の北川拓也氏。

本稿では、『歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)』オーガナイザーの深井龍之介氏と、Podcast Studio Chronicle代表・音声プロデューサーの野村高文氏が、北川氏に「物理学者の目には世の中がどう見えているのか」率直に聞いた様子を対話形式でお届けする。

※本稿は『視点という教養』(深井龍之介・野村高文[共著]、イースト・プレス刊)より一部抜粋・編集したものです。

 

腑に落ちるまで「Why」と問う

【野村】ところで、物理学者の目には、世の中がどう見えているのかが気になります。

【深井】北川さんは物理学者のバックグラウンドを持ちながら、楽天でビジネスをしていました。おそらく一般の物理学者よりも、広範囲のものを見ていると思うんです。

そんな北川さんが仕事をしていて、「他の人はこんな見方をしないんだ」「自分は物理学者だから、こういう考え方をするんだろうな」と感じることはありますか?

【北川】よくあります(笑)。やっぱり、第一原理主義で、ものごとの根本まで立ち戻って理解をしようとする癖がある。

たとえば、アメリカで株式取引アプリを運営するロビンフッドが上場したというニュースを聞くと、なぜ彼らが儲かるのかを見るんです。

彼らが大きく支持されたのは、株式の取引手数料を無料にしたことと、ゲーム感覚で投資に親しめるアプリのUI・UXの大きく2点ですが、手数料を取らずにどうやって儲けるんだ? という疑問が浮かびます。

調べていくと、ロビンフッドが顧客から集めた注文をマーケットメイカー(値付け業者)に送れば、彼らからキックバックがもらえる仕組みがあったんです。だから顧客の手数料を無料にしても、儲けることができる。

じゃあこんどは、なぜマーケットメイカーはお金を渡せるんだ、彼らはどうやってお金を儲けているのか、ロビンフッドがマーケットメイカーに依存する構造はリスクがあるんじゃないのか、という疑問が出てくる。

【深井】そこまで考えるんですね。

【北川】マーケットメイカーは、割安な株を買って割高な株を売ることで、その差分を利益としています。もしロビンフッドがマーケットメイカーと決別しても、最悪、ロビンフッド自身がマーケットメイカーのポジションに入って稼げばいいのだとわかり、ようやく理解できるんです。

僕たちはこんなふうに、腑に落ちるまで、とことんWhyを問い続けるわけです。

 

3つの学問で「理解する」の意味は異なる

【深井】そういう見方をしているんですね。どういう状況になると、腹の底から「理解できた」と思えるんですか?

【北川】その「理解する」という言葉は分解できて、数学的な「理解する」と、物理学的な「理解する」と、工学的な「理解する」からできています。

【野村】3つの学問で「理解する」の意味が違うんですか?

【北川】全然違います。数学では、分類できたら「理解した」とみなします。数学とは、壮大な分類学問なんです。

【野村】分類、ですか。パッとイメージできないのですが、数学は何を分類しているのですか?

【北川】めちゃくちゃ簡単にいえば、物の形を分類する学問がトポロジー(位相幾何学)。アルジェブラ(代数学)は足し算や引き算など、数字に対するオペレーションを分類しているんです。

たとえばLogという関数がありますが、X×YをLogにすると、LogX+LogYになる。つまり、もともと掛け算だったものを、違う空間に持っていけば、足し算に変わる。そういう考え方をするのが数学です。

【深井】オペレーションのあり方の分類なんですね。

【北川】そうです。次に物理学における理解とは、予測のことです。高校物理で「ボールをこの角度で投げたらどこに落ちるか」という問題を解かされたと思いますが、あれは予測をしていたことになります。

でも工学では予測するだけではだめで、欲しいものを実現して初めて「理解した」ことになります。なぜなら、予測と違うものができると困るからです。

【深井】そんな違いがあったんですね。ということは「物理学的にビジネスを見る」とは、ビジネスモデルの構成を理解して、今後が予測できる状態になることを指すんですか。

【北川】そうですね。僕たちはふだん、この3つを混ぜこぜにして話しています。たとえばマーケターがある人を見て「理解した」と思うのは、「30代・女性・子どもあり」というふうに属性を分類したとき。

ロビンフッドのビジネスモデルを理解するのは、「マーケットメイカーと決別しても、こうすれば生き延びられる」と考えることですから、まさしく予測です。

【深井】でもビジネスは社会現象だから、ロビンフッドという会社の属性や経営陣の人柄も、成功因子の1つだと思うんです。これは、物理と異なるところではないんですか?

【北川】ビジネスモデルとは基本的に、誰がどうやっても成り立つものという考えがあります。ただこれは、いつも正しいわけではありません。深井さんの言うように、「こういう人材がいて、この執行体制だからこそ、このビジネスモデルが効く」ということが実際にはあります。

現在のビジネス理論が自然科学寄りになっていることは否めないので、もう少し社会学的な要素を含めて考えるべきではないかと、僕は思っています。

【野村】物理学者が「企業がなぜ儲かっているのか」を突き詰めて考えた結果、「いい人材がいたから」という答えに行きつくケースもあるということですか?

【北川】可能性はあります。とはいえ歴史的には、ビジネスの成否は人よりもビジネスモデルやロジックによるところが多かったのは事実ですし、教育制度が整っていないうちは、ロジックで決まる利益のほうが強かったんだと思います。

ただそれも現代に入って、Googleなどの会社がケイパビリティ、つまり人の能力による会社を成功させることで変わってきています。

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ビジネスモデルの構築は、物理の理論構築と似てる

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