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やっぱり根回しは大切? 精神科医が教える「職場で味方をつくる」コツ

和田秀樹(精神科医)

2022年09月27日 公開 2024年12月16日 更新

職場で意見を通すには、まず周囲を味方につけて、根回しすることも時には必要だ。精神科医の和田秀樹氏が、相手の「心理ニーズ」を満たし、自分の味方にするテクニックを紹介する。

※本稿は、和田秀樹著『なぜあの人の意見が通るのか』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

精神分析に学ぶ上手な根回し

2011年、暗いムードが漂っていた日本に明るい光を注いでくれたのが、ワールドカップで優勝したなでしこジャパンだ。なかでも注目されたのが、持ち前の明るさでチームを優勝に導いた佐々木則夫監督だ。

決勝戦の延長後半で澤穂希選手が同点ゴールを獲得し、勝負はPK戦へ。優勝がかかったPK戦にもかかわらず、カメラがとらえたのは、笑顔で選手たちと会話をする佐々木監督だったからだ。

その理由を佐々木監督は、「(PK戦に突入したことについて)天からの恵みみたいな展開になったので、笑いが止まらなかった」と話した。

もちろん佐々木監督は、笑っていただけではない。PKの順番や指針など、最低限の指示は出したに違いない。でも本当に伝えたかったことは、言葉でなく「笑顔」で伝わったのかもしれない。

会社でも同じことが言える。「わが社では、競合他社よりも在庫が1.5倍くらいあります。従って削減すべきです」と、多くの人は自分の意見の妥当性をロジカルに訴える。

しかし、どんなに妥当な意見であっても、相手が攻撃的だったり、ケンカ腰だったりすると素直に聞き入れられない。つまり意見を通すためには、意見の妥当性のみならずお互いの良好な関係性も必要なのだ。

事実、意見が通る人は味方も多い。心理学の世界では、人間はお金をくれる人ではなく、自分の心理ニーズを満たす人の味方になるとも言われている。つまり意見を通す人は、上司や同僚などの「心理ニーズ」を満たしている、と言えなくもない。

「心理ニーズ」と言うと難しく思われるかもしれないが、そのニーズは大きく3つに分かれると言われている。

1つ目は、自分が認めてほしいと思うことに気づいてほしい、というニーズだ。女性は、髪形を変えたときや新品のワンピースを着ているとき、気づいてもらえないと寂しいという。

ビジネスでも同じで、「最近、営業成績が伸びていてすごいですね」と言われると嬉しい。自分の「鏡」のように自分を承認してくれると嬉しい、というケースだ。

一方、落ち込んでいるときには、目標や理想とできる人が近くにいると安心できたりする。部下が上司を尊敬していると関係が長続きするが、これは上司がある種の理想化対象になっているパターンだ。「私がついているから心配いらないよ」と言われてホッとするのも同じ心理による。

しかし、世の中には褒められても「お世辞」だと解釈したり、「私がついているよ」と言われても「あなたと私は別だ」と思う人もいる。このような人は相手に「双子」を求めていると言われている。つまり「この人と自分は同じ世界の人間だ」と感じさせるのだ。

アメリカで人気のある精神分析論の創始者であるハインツ・コフートは、この3パターンを「鏡」「理想化」「双子」と名付けた。私が思うに、味方が多い人は、この3パターンを瞬時に見極めているように思う。

褒められたい人には「鏡」となって褒め、不安が強い人や落ち込んでいる人には安心感を与え、いずれでもない人とは「双子」のように寄り添う。

もちろんすべてのパターンをうまくこなすのは難しいだろう。さらに上司など格上の人を褒めるのも、逆に失礼だったりする。でも「部長は人の気持ちを読みとるのが上手だから、受注も多いんでしょうね」と声をかけることはできる。

不安が強い上司には「頼りになる奴だ」と思ってもらえればいいし、「俺とオマエは似た者同士だよな」と思われるのも1つの戦略だろう。つまり相手の心理ニーズにこたえることで、意見を通す基盤を作るのだ。

このような基盤ができると、上司と部下の関係から仲間のような感覚になる。本来、部下の意見は平等かつ客観的に判断すべきだが、好感を持っている部下の提案はやはり「いい」と思ってしまうし、「若造」感が溢れていたとしても応援したい気持ちになる。

意見を通す人とは、「NO」とは言いづらくなる関係性を日頃から構築することで、プレゼンという「公的」な場を限りなくプライベートな場にしているのではないだろうか。私は、これこそが真の「根回し」ではないかと思っている。

「根回し」と聞くと少し政治的な香りがするかもしれない。でも、上司や同僚との付き合いは、その会社にいる以上簡単に断ち切ることはできないものだ。だから意見の妥当性を強引に主張するのではなく、根回しによってしこりを残さない関係を作ることも大事なのである。

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