ギャラリーを味方につける
私は議論を取り巻く人々のことを「ギャラリー」と呼んでいる。意見を通す際に周囲を取り囲むギャラリーの存在はとても重要で、ギャラリーがどちらの側につくかによって、その議論の明暗が分かれることも多々ある。
田中眞紀子さんは、ギャラリーを味方につけるのが上手かった。外務大臣時代、外務省のお役人と対立していた眞紀子さんは、外務省を伏魔殿と呼んでいた。
眞紀子さんの意見すべてが正しいかどうかはわからないが、彼女はギャラリーであるマスコミを通じて、これまた最強のギャラリーである国民に、自らが置かれている境遇を上手く訴えた。
すると最強のギャラリーは「外務省が田中眞紀子さんをいじめている」「眞紀子さんを追い詰めるために、外務省は外交機密をリークしているのでは」という憶測を始めた。ギャラリーの心を上手くつかんだ例である。
ギャラリーの心理に訴えかける最大の武器は「涙」だろう。小泉元首相が田中眞紀子氏を外相から外したとき、田中氏は「一生懸命やってきたつもりだったんですが」とマスコミの前で涙を見せた。
歯に衣着せぬ物言いと行動力で強気なイメージが強かった田中氏だけに、涙を見せたのは意外で、心に訴えかけるものがあった。
涙が武器になるのは、女性だけではない。山一證券の野澤正平元社長も廃業発表の場で涙を流した。会社を潰したくさんの失業者を出したという意味で、彼は同情を集められる立場ではない。しかし自分の非を認め、涙を流したことで、実際に犯した罪以上の悪い印象は残らなかった。
もちろん、ビジネス上の会議ではそうそう簡単に涙を流せない。むしろ泣き始めると「こんな奴に仕事を任せておいてよいのだろうか」と心配を与えてしまう。
でも泣きたくなるほど窮地に追い詰められたときが、逆にギャラリーの心をつかむチャンスであることは間違いない。めげずに、真摯に言葉をつむぐことだ。
ちなみに心理戦は、自分が有利に立っているときにも使える。中には、優勢になったことをいいことに、ただやみくもに攻めていく人もいるが、それは上手いやり方とは言えない。
1番理想的な意見の通し方とは、相手をねじ伏せることではなく、相手とwin-winの関係を築くことにある。だから自分が主導権を握っているとき、つまり相手が困っているときに、自ら和解策を提案するといい。
いずれにしても、最後まで勝負は終わっていないと思うことだ。少なくとも、不祥事を起こした後、攻め立てるマスコミに対して「私だって寝てないんだよ!」と逆ギレした雪印乳業の元社長のような態度には注意したい。